節電と作業効率の
意外な関係

 一方の「知識創造」。オフィスにおける知的生産性には空調が大きく影響するという。

 伊香賀教授の研究室では、オフィスの温熱環境が作業効率や電力消費量に与える影響の調査を行っている(07年度)。調査は7~8月、実際のオフィスビル(ワンフロア1500平方メートル・約200人の従業員)の4階と5階を使って行われ、1週間ごとに室温を25℃と28℃に交互に設定し、それぞれの期間の作業効率を客観・主観評価で測定した。

作業効率の変化による経済的影響(円/m2/日)=人件費(円/人日)×人員密度(人/m2)×作業効率の低下率(%) 電力消費量の変化による経済的影響(円/m2/日)=電力消費量の削減量(kWh/m2/日)×エネルギー価格(円/kWh) オフィス従業員へのアンケートによる主観評価と、学生被験者がオフィスワークを模した作業の達成度等の客観評価、またアンケートによる主観評価で、温熱環境の変化が作業効率に与える影響を検討。作業効率が最も高まる25.7℃を基準とすれば、室温28℃の場合、1日につき10m^2当たり1.5円の電気代が節約できるが、150円分の生産量が失われる。

 結論からいうと、設定温度を28℃にした場合、空調のエネルギー消費量は約半分に減り、床面積10平方メートル当たり1.5円/日、電気代を節約できた。しかし、作業効率は10%も低下してしまった。これを人件費に換算すると、10平方メートル(約1人分のスペース)当たり150円/日のロスになる。つまり、この調査からは、空調の温度を上げる節電手法は、企業経営にとって経済的影響(損失)が大きいという結果が出たのである。

 高効率の空調システムを持つ高機能ビルならば、温度の設定を上げることなくCO2排出量を削減し、作業効率をキープすることが可能になる。低炭素社会に移行しつつある現在、企業にとっては高機能ビルへの入居が経済的にもメリットとなるわけだ。

 ちなみにこの調査では、25.7℃が最も作業効率がよい温度であることが判明したという。

知的生産性の
経済的価値を評価

 「知識創造」では、オフィスの構造自体が重要な要素となる。

 「知的生産性を高めるには、社員相互のコミュニケーションが大事だといわれています。定例的な会議よりも、インフォーマルな会話、たとえば偶然すれ違った他部署の社員との会話をきっかけによいアイディアが浮かんだりするものです。最近のオフィスビルは、こうした偶発的なコミュニケーションを意図的に狙って、オフィスビルの中に内階段でつながった2層吹き抜けの空間をつくるなど、社内のコミュニケーションを活発にする仕掛けを施したものが登場しています。

 また、移動のための廊下やリフレッシュ空間で、窓を大きくとって自然光を取り入れるなど、健康増進につながる工夫が多く見られるのは、室内環境がうつ病や創造性に与える影響は少なくないと考えるからです」

 ちなみに知的生産性とは、単純な情報処理作業から、アイディアを生み出す知識創造活動、社員の意欲の向上や、優秀な人材の確保までが含まれる。

 伊香賀教授は現在、国土交通省の知的生産性研究委員会において、知的生産性が高いオフィスビルを客観的に評価・格付けするシステムづくりに取り組んでいる。

 「まだ試算の段階ですが、丸の内・大手町エリアにある賃料約5万円/月・坪のオフィスの場合、知的生産性の評価が“オール3”から“オール5”に上がると、追加賃料として約3700円/月・坪の経済的価値が生まれると考えています」

 高機能ビルは、震災時の機能維持とともに、知的生産性の経済的価値までが評価される時代に突入しつつある。企業にとってオフィスビルの選択は、まさに経営に直結する重要なファクターとなってきているのだ。