[東京 4日 ロイター] - 英国経済がスタグフレーションの危機に直面しようとしている。欧州連合(EU)離脱を控えた英ポンド安を背景に、輸入インフレが進行。だが、賃金伸び悩みにより、国内消費は不振で、物価高と景気後退の懸念が英経済を揺さぶっている。英国に進出した日本企業は、コスト高とブレグジット・リスクに挟撃され、対応に苦慮する展開もありそうだ。

<ポンド安による輸入インフレ>

英ポンドの対ドル相場<GBP=D3>は、昨年6月の英国民投票当日に1.5022ドルの高値を付けたが、4カ月後の10月7日に1.1491ドルまで24%急落。現在は、1.29ドル台まで反発しているが、安値から半値戻しも達成できていない。

「ポンドの弱い反発力は、ブレグジットを選んだ結果に対し、市場が厳しくみている証拠だ」と三井住友銀行・チーフストラテジスト、宇野大介氏は指摘。ポンドは今年末に1.25ドル、来年にかけて1.2ドルを割り込むと予想する。

EU離脱決定後のポンド安がもたらした物価上昇は、英国民の可処分所得と個人消費を圧迫し始めている。英消費者物価指数(CPI)は、昨年第4四半期の前年比1.2%上昇から、今年第2四半期の同2.7%上昇へと上げ幅を拡大している。

みずほ総合研究所・欧米調査部上席主任エコノミスト、吉田健一郎氏は、英経済は、スタグフレーションの状況に陥っていると指摘。この先も「ポンド安を背景にインフレ率が再び上昇し、実質所得が物価面から押し下げられる」とし、消費の下振れリスクが大きいとみている。

ポンドの実効レートは、今年6月の総選挙後に低下傾向となり、8月末時点で昨年10月以来の低水準にある。今後、欧州中央銀行(ECB)が出口戦略を模索するのに伴って、ユーロ高/ポンド安が進むとみられる中、「ポンドの実効レートは一段の低下が見込まれ、輸入インフレに寄与する」(吉田氏)との見方が多い。

イングランド銀行(英中銀)は8月3日の金融政策委員会(MPC)で、政策金利を過去最低水準の0.25%に据え置くとともに、2017年および18年の国内総生産(GDP)伸び率見通しを下方修正した。しかし、一部のMPC委員は、ポンド安によりインフレ率が数カ月間で約3%上昇する公算が大きいとし、直ちに利上げを開始すべきと主張する。

<外資誘致と財政負担増>

英国は雇用確保の目的から、日本を含む外資の製造業に特別な措置を講じる計画だが「大きな政府は財政に負担をかける。離脱が現実になれば経済的な損失が大きいことを、ポンド相場は織り込んでいくことになるだろう」と宇野氏はみている。

近年の英国の産業モデルは、おカネと人材を国外から誘致するという、外資中心のウィンブルドン方式で、ロンドンのシティを中心とする金融業はその最たるものだった。しかし、このビジネスモデルは世界金融危機で行き詰まった。

その後の金融緩和によって、英国では不動産や株価が上昇したが、貧富の差が拡大し、移民労働者が問題視されるなか、「ブレグジット」決定に至った。

「ブレグジットは、人とカネの動きを遮断するものだ。移民の流入は止められるかもしれないが、英国にとって必要不可欠な大陸市場を切り離せば、残るのは、巨大な財政赤字と経常赤字だけだ」と、国内大手機関のファンドマネジャーは予測する。

投資家の間では、高金利通貨を志向する風潮はあるが「スタグフレーションの通貨は運用対象外だ。英国にとって本当のカオスはまだ始まっていない」(同)という。

<揺らぐ「巨大市場へのゲート」の地位>     

安倍首相は8月31日にメイ英首相と会談し、原発建設の協力推進を確認した。日本経済新聞の報道によると、日立製作所が英国に建設する原子力発電所について、日本のメガバンクが融資する建設資金を日本政府が日本貿易保険を通じて全額補償するという。先進国向け案件の貸し倒れリスクについて、国が全て引き受けるのは異例だ。

日産自動車は、英国工場の生産を2割増やす計画。英国政府の優遇策を利用して部品会社を誘致し、現地調達率を8割前後に引き上げる。

しかし、こうした動きとは対照的に、多くの企業は不安を拭いきれない。

ドイツ商工会議所のトップは28日、英国のEU離脱後に貿易障壁が高まるとの見方から、ドイツ企業の多くが英国から投資を移し始めていると述べた。

帝国データバンクによると、英国に進出している日本企業は昨年6月時点で約1380社。4割が製造業で、多くは欧州事業の統括機能を置く。

「これまではEUという巨大市場のゲートとして、英語でビジネスができる英国に拠点を置く意味があったが、英国がその地位を手放すのであれば、話は変わってくる」と、ある国内部品製造メーカーの関係者は話している。

(森佳子 編集:伊賀大記)