[東京 5日 ロイター] - 地政学リスクを嫌気し、対ドルで円高圧力が強まる一方、対ユーロでは円安傾向が続いている。日本企業が期初に設定した想定為替レートに対し、ドル/円<JPY=>はやや円安からほぼ変わらずの水準で取引が続いているが、ユーロ/円<EURJPY=>はかい離が拡大。ユーロは景気や金利面から中長期的な先高観が強く、欧州売上高比率の高い日本企業に業績上振れ期待が高まっている。

<ドルよりもユーロ>

印刷機械大手の小森コーポレーション<6349.T>。同社はオフセット印刷機で、ドイツのハイデルベルグ、KBAとともに世界3強を形成。3社合計で8割程度の世界シェアを持つ。欧州での売り上げは全体の約2割を占め、対ユーロでの円安は1台あたりの利幅が広がるだけでなく、ライバルのお膝元での値引き交渉にも余裕が出る。

同社は今のところ、2018年3月期業績の前提となる想定為替レートについて、期初に設定した1ドル=105円、1ユーロ=115円に据え置いている。為替が1円動いた際の営業利益に与える影響(感応度)は、対ドルが1億円程度、対ユーロは8000万円程度と対ドルの方が若干高い。

しかし、現行レートはドルが109円半ば、ユーロが130円前半。想定レートとのかい離は対ドルで4円強、対ユーロが15円強となっている。仮に現行レートが3月末まで続いたとすると、業績の上積み幅は対ユーロの方が上回る。

同社の財務担当者は「期初はフランス大統領選など政治リスクを警戒して保守的にしたが、ユーロ高は業績面でも価格面でも追い風になる。できればこの状態が続いてもらいたい」と話す。

<現地生産少なく、輸出に恩恵>

欧州関連銘柄の代表格がマツダ<7261.T>とスズキ<7269.T>だ。

マツダは2014年にメキシコ新工場を稼働。海外での部品調達などでドル建て決済が増え、18年3月期のドル/円の為替感応度(営業利益ベース)は9億円と、前期の14億円から低下する見通し。一方、欧州で完成車は生産しておらず、主力商品は日本からの輸出が多い。18年3月期の欧州の販売台数は前年比2%増を計画。ユーロ/円の感応度は23億円と、前期の19億円から上昇する。

スズキの為替感応度も今期は対ドルで6億円、対ユーロで12億円。両社とも対ドルより、対ユーロの感応度が高い。

ユーロ/円の4─8月の平均(終値ベース)は125.34円。仮に9月から来年3月末まで130円が続いたとすれば、2017年度の平均は128円程度まで上昇する。「ドル/円に比べれば日本の企業業績への影響は小さいが、個別では業績上振れ期待で買われる銘柄もあるだろう」(みずほ証券・投資情報部長の倉持靖彦氏)とみられている。

外務省によると、16年の地域別日系企業(拠点)数は、西欧が5810拠点、アジアが4万9673拠点、北米が9225拠点。欧州は米国やアジアなどに比べて現地の生産拠点が少なく、相対的に自動車、電機、機械、精密セクターで輸出が多くなっており、ユーロ高になれば、輸出採算の改善につながる。

16年の日本の輸出額70兆0358億円に占める対欧州連合(EU)の割合は11.4%(7兆9817億円)にとどまっているが、割合は15年の10.6%から0.8ポイント上昇した。17年には日本とEUの経済連携協定(EPA)交渉が大枠で合意。今後の輸出拡大の起点として期待される。

ユーロ圏経済は、17四半期連続のプラス成長。「もともとドイツやフランスなど中核どころは景気が良かったが、今の景気局面でモメンタムが強まっているのは、スペインやイタリアといった周辺国」とSMBC日興証券・圷正嗣チーフ株式ストラテジストは指摘する。

<堅調な欧州ファンダメンタルズ>

外為市場では、6月下旬の欧州中央銀行(ECB)年次フォーラムで、ドラギ総裁が政策微調整の可能性を示唆し、ユーロ高の流れが強まった。

8月29日、ユーロは対ドルで節目の1.20ドルを突破し、2年7カ月ぶりの高値圏に上昇。対円でも1年6カ月ぶりの水準を付けた。ユーロ/ドル<EUR=EBS>の年初からの上昇率は13%に達しており、高値警戒感も出ているが、通貨オプション市場では、ユーロ/ドルのリスクリバーサルは6カ月物でユーロコールオーバーに転換しており、市場参加者のユーロ先高観がうかがえる。

テーパリングの具体的な内容が明らかになれば、いったん材料出尽くしで調整が入る可能性もあるが、欧州の堅調なファンダメンタルズを背景にユーロ買い地合いは続くのと見方も多い。

ソシエテ・ジェネラル銀行・為替資金営業部長、鈴木恭輔氏は「来年3月にかけてユーロは1.23ドル、135円程度までそれぞれ上昇余地はある」との見方を示している。

<想定レート>      <1円円安に変動した際の年間利益影

響額>

ドル ユーロ ドル ユーロ

マツダ<7261.T> 108 円 118円 9億円 23億円

スズキ <7269.T> 110 円 115円 6億円 12億円

コニカミノルタ<4902.T>      105円 115円 ▼1億円 8億円

オリンパス<7733.T>        110円 115円 11億円 7億円

マキタ<6586.T>          105円 115円 ▼2億円 6億円

オムロン<6645.T>         110円 118円 5億円 5億円

シスメックス<6869.T>       110円 115円 5.7億円 1.2億円

小森コーポレーション<6349.T>   105円 115円 1億円 0.8億円

トプコン<7732.T>      107.03円  117.50円  1億円 0.5億円

任天堂<7974.T>           105円 115円 ─ ─

(営業利益ベース、▼はマイナス)

(杉山健太郎 編集:伊賀大記)