[東京 5日 ロイター] - 米格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)グローバルのチーフエコノミスト、ポール・シェアード氏は、日銀が昨年9月に導入したイールドカーブ・コントロール(YCC)政策は、革新的でエレガントな枠組みと述べ、量的・質的金融緩和(QQE)を含め、デフレ圧力の緩和に一定の効果を上げていると評価した。

もっとも、日本の物価の動きは非常に鈍いとし、積極的な金融緩和の継続が重要と指摘。2019年10月に予定されている消費税率の再引き上げをリスクに挙げ、消費増税は物価2%目標の実現を前提にすべきと語った。

5日までに行ったインタビューは以下の通り。

──長期金利も操作対象とした異例のYCC政策をどのように評価するか。

「日銀による長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策は、革新的でエレガントかつ精緻な枠組みであり、その運営は比較的うまくいっている。金利とバランスシートの2つの政策ツールを持っており、日銀はそれを積極的に活用している」

「2013年4月に導入したQQEは、イールドカーブ全体を押し下げ、緩和的な金融環境を作り出したことによって、円安をもたらし、株価を押し上げるなどうまくいった。経済活動の活性化と労働市場の引き締めにも効果を発揮した。日銀の金融緩和策は、デフレ圧力をかなり緩和する方向に作用していると評価できる   

──YCCは、物価2%目標実現への経路や効果が不透明との指摘もある。

「効果の波及経路は明瞭だ。全ての金融緩和は、金融環境の変化と期待を通じた経路で実質金利の引き下げを目指しており、長短金利操作付き量的・質的金融緩和も例外ではない。その意味ではYCCも従来の政策の延長線上にあると考えていい」

──YCC政策の持続性をどのように考えるか。金融政策は正常化に向かうべきか。

「持続性という意味では、理論的に特別な制約はないし、金融政策を正常化すべきとも思わない。現行の金融政策を維持していくことが最も重要だ。もし、日本経済に新たなショックが生じた場合、積極的な金融政策と並行した財政政策が効果的となる」

──積極的な金融緩和にもかかわらず、物価の動きは緩慢だ。

「理論上も過去20年を通じた各国中央銀行の取り組みからも言えることだが、持続的なデフレや大きな需要不足に対処するツールとして、金融政策は非常に弱い力しか持ちえない。金融政策はマクロ経済の微修正には有効だが、深く根付いてしまったデフレや深刻な不況に対応するには不向きだ」

──物価2%目標の実現に向けて、さらに必要なことは何か。

「デフレや不況を克服するには、財政政策と金融政策の両方が必要であり、重要なのは財政政策が金融政策を妨げないことだ。その意味では、2019年10月に予定されている消費税率の再引き上げによって、時期尚早の財政引き締めが行われることが、リスクと考えている」

「消費税率引き上げのタイミングは、カレンダーベースではなく、日銀のオーバーシュート型コミットメントに結びつけるべき。日銀がバランスシートの拡大を継続することと、政府がインフレ率2%を超えるまで消費税率を引き上げないことに共同でコミットすれば、人々のインフレ期待に大きな影響を与え、政策成功の可能性を高めるだろう」

──欧米と比べて日本のインフレ期待は上がりづらい。

「日本国民のインフレ期待、経済全体の賃金・価格設定行動にかなりの粘着性があり、動きは非常に鈍い」

「黒田東彦総裁が就任する前の日銀は、マイルドだが慢性的なデフレを予防することも、終わらせることもできなかった。旧来の日銀のメッセージに慣れている国民に、黒田総裁の新しいメッセージをいきなり信じさせるというのは難しかったのだろう」

「そうした中では、非常に大規模な量的緩和でさえ、経済活動に大きくかつ迅速に影響を及ぼすことは難しい。そのうえ政府はQQE導入の1年後に消費税率を引き上げ、金融政策と財政政策の方向性が食い違ってしまった」

──黒田総裁は、来年4月に5年間の任期満了を迎える。

「黒田総裁が続投する場合は、金融政策の継続性が確保され、将来政策が急に転換されるのではないかという国民の不安を払しょくすることになるので、非常にポジティブといえる」

「新たな総裁が選出されるならば、その人物は(物価2%物価達成に向けた)黒田総裁の政策を継続し、金融政策によって物価をコントロールできるという信条を継承していくことが不可欠だ」

*見出しを修正します。

(木原麗花 翻訳:伊藤純夫)