その画像認識にロボットを組み合わせれば、さらに用途は広がる。

 「例えば今、お掃除ロボットはありますが、片付けロボットはありません。なぜならこれまでは視覚認識ができなかったためです。“眼”が見えるようになれば、後は手足を上手に作るだけ。片付けロボットは技術的に可能だと思います」と松尾准教授は説明する。

 もともと日本は“ものづくり”において高い技術力を持っている。グローバルニッチの高い技術力を誇る中堅企業は数多く存在する。「その技術力は人工知能とは相性が良い」(松尾准教授)はずで、後はどれだけ製造コストを下げられるかという問題である。人工知能とロボットの組み合わせは、製造業や農業や建築、さらには介護や医療など広範囲にわたって、これまで人間が携わってきた仕事を自動化する可能性を秘めているのだ。

経済成長には
人工知能を利用した新たな産業が不可欠

 人工知能が人の職を奪うのではないかという議論は、人工知能が生み出す新規事業を考えることで解決できる。すでに世界では人工知能のベンチャー企業が次々と誕生し、人工知能に関連する事業が増え始めている。

 「インターネットの普及で世の中は便利になりましたが、結局そのお金はGoogleやFacebook、Amazonなどに落ちている。日本が経済成長するためには、人工知能を利用して雇用を生み出す産業を新たに創り出すことが肝要だと思います。ディープラーニングの論文はオープンになっているので、後は実際のものづくりと組み合わせて事業化することを頑張ればいい。ところが日本企業の多くは、キャッチアップが遅く、妙なプライドがあって“まね”をすることを良しとしない。日本企業はもっと謙虚に自分の立場を理解し、スピード感を持って追随していくことが重要なのです。思えば日本の高度成長も“まね”をすることで実現してきたわけですから」と松尾准教授は指摘する。

 ディープラーニングに強いのは20代の技術者だという。ディープラーニングは新しい技術であり、若手人材によるキャッチアップの方が早いためだ。こうした若手人材をうまく活用し、世界の先端を行くディープラーニングと、高品質のものづくりを組み合わせ、利益を技術開発に再投資するサイクルをつくり上げれば、「たとえ小さな企業でも、あっという間に巨大企業になれる」と松尾准教授は言う。それこそがGoogleやFacebookがインターネットの世界で成し遂げてきたことなのだ。

ダイヤモンド経営者倶楽部とは

ダイヤモンド経営者倶楽部は日本経済の活性化に貢献する趣旨の下、次世代産業の中核を担う中堅・ベンチャー企業経営者の方々の多面的支援を目的として設立。ダイヤモンド社の80周年プロジェクトとして1993年に創設された。現在の会員数は約500人。成長意欲の高い魅力的な経営者が集う“場”を提供する日本有数の経営者倶楽部として高い評価を得ている。