千鳥工場の専用貨物線は、なかなか動く姿を見られないが、公道に面した一角は、写真撮影の絶景スポットとなった。なぜなら、夜間操業中のプラントの明かりに照らされる線路越しの景色が幻想的で、色鮮やかに映えるからだ。この名所を敷地内で撮影した写真などが、初めて世に出るのである。

信用が工場長を動かす

 実は、世の中で工場夜景が注目を浴びるきっかけをつくったのが、川崎臨海部を擁する川崎市だった。08年、観光資源開発の一環として、1日限定の夜景観賞ツアーを実施してみたところ、好評だったことを受け、老若男女が参加できる屋形船クルーズやバスツアーが定期的に企画されるようになった。

 この動きは、かつての公害問題や事故などによる悪いイメージの払拭に悩む全国の地方自治体を動かした。11年2月、川崎市で「第1回全国工場夜景サミット」が開催され、(1)北海道室蘭市、(2)神奈川県川崎市、(3)三重県四日市市、(4)福岡県北九州市の4都市が「四大工場夜景」を共同宣言した。その後、6都市が加わり、今では「十大工場夜景」に増えている。

 もっとも、そもそも危険な設備を動かす石油会社や化学会社などは、通常ならば、構内撮影を許可しない。日本触媒の関係者は「プラントというものは、“特許の塊”のような設備なので、部外者には見せない」と打ち明ける。

 ところが、川崎工場夜景カレンダーの企画・撮影・制作を続けるカメラマンの青木秀道氏は、こう振り返る。「大手新聞社の企画開発マンだった時代に工場夜景のカレンダーを制作するなど接点はあった。だが、工場関係者の信用を積み重ねたことが大きい」。

 その信用が日本触媒の工場長の気持ちを動かした。約20年前から断続的に続く工場夜景ブームだが、ここへ来て、再び盛り上がる兆しを見せている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)