「国際法を遵守し,互いの安全を脅かす行動をとらない。朝鮮半島の核問題およびミサイル問題に関しては、関係諸国間の対話を促進し、問題解決をはかる」

 確認事項にこう書き込まれた。

 日本は北朝鮮を国際舞台に引き出す大事なカードを握りながら、国内とアメリカを説得できなかった。

 当時の外務省には、田中均アジア太平洋州局長を中心に、経済援助に絡めて北朝鮮に非核化を促そうとする動きがあった。田中は北の高官である「ミスターX」と極秘の交渉を重ね、小泉が電撃訪問するおぜん立てをした。今から見れば「朝鮮半島非核化」へ進む画期的な外交だった。

 ところが、日本の主導権にアメリカが反発しブレーキを掛けた。自分たちを差し置いて日本が勝手に、と小役人根性まる出しの米国務省が貴重なチャンスを潰し、今日の危機を招いた。

 アフガニスタン・イラクに目を奪われたブッシュは北東アジアに関心がなかった。国内では「拉致問題をうやむやにするな」と声が上がった。小泉政権は、国交正常化交渉を断念し、北朝鮮を非難する安倍晋三が拉致問題を煽って政権に就き、日朝平壌宣言は白紙となった。

「米との直接交渉しかない」
暴走する金正恩の胸のうち

 振り返れば、この顛末が今日の危機の遠因になった。私が北京で会った北朝鮮の政府関係者は「日本と話し合っても無駄だと分かった。米国と直接話すしか方法はない」と語った。

 核保有国となって米国を引き出すしか話し合いの道はない、と北は鮮明に覚悟した。日本と平和条約を結び、経済援助を得て産業を固め、米国との朝鮮戦争に終止符を打つ、という段取りを放棄したのである。

 核を振りかざしてラブコールする北朝鮮にオバマは関心を示さなかった。その気になればいつでも踏みつぶすことができる小国の罵声に付き合ってはいられない、という冷やかな対応だった。その間に北朝鮮は、国民生活を犠牲にして米国に届く核ミサイルの開発に心血を注いだ。

 日本から見れば「狂気」にしか思えない北朝鮮の振る舞いだが、金正恩の立場で考えると当たり前のことをしているだけなのだろう。