それでも現代人が糖質をやめられない理由
――糖質中毒は薬物中毒と同じ!?

 山で遭難した人たちが命を落とすのは、たいていが低体温症によるものです。体温を保持できて川の水などを飲むことができれば、食べ物がなくても1か月近く生き延びることができます。

 食べ物を摂取できない状態が続けば、肝細胞などに取り込まれていたグリコーゲンが、それも尽きれば脂肪細胞の中性脂肪が燃える(正確に言えば、脂肪をエネルギー源として使い、一部はブドウ糖となって血液中に放出される)ことによって、私たちはエネルギーを得て、血糖値を安定させて命をつなぐことができます。

 逆に言えば、飢えた状態でも生き延びることができ、血糖値は下がりすぎないのです。登山者が非常食としてチョコレートや羊羹など重さのわりに糖質がたっぷり含まれているものを用意するのは、いざとなったときにそれらを口にするのが一番効率的だからです。

 現代の日本人にとって「いざというとき」など、めったに訪れません。しかし、私たちの祖先は絶えず危機に直面していました。祖先たちは日常的に飢えていて、「いつ死んでもおかしくない」状態に置かれていました。

 そういう状態にあった祖先の脳には、「血糖値を下げ過ぎてはいけない。チャンスがあったら糖質をとりなさい」という指令がプログラミングされています。そして、私たちもそれを引き継いでいます。野菜や魚などを食べられない人はいても、ごはんやラーメンが嫌いだという人がいないのはそういう理由があるからです。つまり、生き延びるために、私たちは「糖質をとるように」できているのです。

 そして、糖質を食べたときにはご褒美に幸せを感じるようになっています。糖質を摂取して血糖値が上がるとセロトニンやドーパミンが放出されて脳が快楽を得るのは、すでに述べたとおりです。

 これらの仕組みは、飢えていた祖先の時代に「血糖値が下がりすぎて命を落とさないように」できたものです。ところが、現代人ときたら、飢えてもいないのに脳の快楽のために糖質をとっています。まさに糖質中毒なのです。

 アメリカの国立薬物乱用研究所所長、ノラ・ボルコフ博士は薬物依存研究の第一人者ですが、食べ過ぎや肥満問題へと研究テーマを広げ「薬物依存と食べ過ぎはメカニズムが似ている」と指摘しています。どれも、脳が「報酬」を得られるために繰り返す中毒だというわけです。

 医者から「やせなさい」と言われているのに、ラーメン店の暖簾を見るとついくぐってしまうのも、甘い菓子パンがないと満足できないのも、意志の弱さではなく脳がやられた中毒なのだと気づく必要があります。

 以下に、私が作った「糖質中毒チェックテスト」を掲載しておきますので、いまの自分の状態を客観的に見つめてください。なお、この検査を行うと、肥満者の75%は糖質中毒という結果になっています。

(この原稿は書籍『医者が教える食事術 最強の教科書――20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)