バブル時代に登場した自分探しブームのなか
ノンストップに疾走することが奨励された

 1988年6月2日、マガジンハウスから『Hanako』という雑誌が創刊されました。首都圏で発行され、大学卒20代後半の社会人女性を対象とした雑誌です。

 読んでいて気づいたことがあります。誌面に「私」という言葉が洪水のように出てくるのです。たとえば「人のために」「彼氏のために」ではなく、「私のために頑張る」といった言葉の数々です。

 印象的だったので記憶に残っているのですが、見出しに「今年のボーナスは私へのご褒美を買う」といったような言葉がありました。

 それまでの女性は、どちらかと言うと男性からプレゼントをもらうという意識がありました。そんな風潮のなか、自分で欲しいものは自分で稼いで自分で買いましょうという言葉に新鮮さを感じました。

 一方で、自分の欲しいものを買うと書けばいいのに、なぜ「私」へのプレゼントと書く必要があったのか不思議に思いました。

 バブル全盛期の消費文化のなか、女性たちにお金を使わせようという意図があったのかもしれません。女性たちは「自分磨き」という名のもとに講座に通い、教養を身につけようと盛んにお金を使いました。ただ、そこでも「文学を学ぶ」とは書かれず、「自分を高める」と書かれていて、自分への執着が前面に出ていました。

 自分磨きをするには予定を詰め込み、お金を稼ぎ、物を買い揃え、情報のアンテナを張り巡らせる。その「ノンストップ感」に圧倒されつつも、時代の最先端をがむしゃらに走り続けることが奨励されているように感じました。