[東京 19日 ロイター] - 安倍晋三首相が2019年10月から消費税率を8%から10%へとに引き上げ、その増収分を教育無償化などに充てる「使途変更」を検討していることが明らかになった。

10月下旬とみられる衆院選の争点にする公算も大きくなっており、この方針が決定された場合、日本経済や財政、社会構造にどのような変化が起きるのか、専門家に連続するインタビューする。

第1回は、政府の財政制度審議会で会長代理を務める池尾和人・慶應義塾大経済学部教授に聞いた。

池尾氏は増収分の使途変更によって財政健全化が遅れ、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、社会保障サービスのカットを迫られるなど、財政問題がさらに深刻化しかねないと警鐘を鳴らした。

現在の中福祉・低負担の社会保障制度を全世代が一定の痛みを分かち合うかたちで持続可能なものに見直すことが急務だが、安倍政権の取り組みは逆行していると指摘。日銀による金融緩和政策は、主たる効果が財政コストの引き下げになっており、正常化が難しくなっていると語った。

19日に行なったインタビューの詳細は以下の通り。

──消費増税分のうち、教育無償化などの社会保障費の配分を拡充する案が浮上している。

「財政バランスの回復のめどが遅れることになる。低金利よって足元では財政規律をそれほど気にしくてもよい状況が続いているが、問題は何年先まで今の状況が続くかということだ」

「国内的に人口動態という大きな問題が控えている。2025年に団塊世代が後期高齢者になると貯蓄の取り崩しが始まり、同時に現在と同じ社会保障レベルのままでは、大幅な財政赤字が避けられない」

「一方、それを賄う国内貯蓄が不足する状況になり、海外から借り入れをせざるを得なくなる。現在のような低金利では済まなくなる。中長期的な見通しを持った財政経済運営が必要だが、そういう発想はうかがえない」

──2020年度までにプライマリー・バランス(基礎的財政収支)を黒字化させる財政健全化目標の達成が、一段と遠のくということか。

「黒字化目標は先送りせざるを得ない状況になっているが、人口動態問題のダイナミズムは止められない。財政赤字が拡大した場合、社会保障サービス、例えば介護が放棄されるといった事態が起こりかねない」

──社会保障の給付と負担のあり方はどうあるべきか。

「大げさな言い方だが、社会契約の結び直しのようなことが必要だ。今の契約を守ろうとすれば、老齢世代に給付をしていくために、若い世代に大きな負担をかけなければならない」

「要するに中福祉と低負担の仕組みだから財政赤字になってきた」

「財政の持続可能性を回復させるには、中福祉・高負担と低福祉・中負担の2つの選択肢がある。可能なかたちの財政再建とは低福祉・中負担くらいだと思うが、そのためには全ての世代が一定程度、痛みを分かち合うように社会契約を結び直す必要がある」

──安倍政権の全世代型社会保障をどうみるか。

「全世代に痛みを受け入れてもらうのではなく、恩恵を与えるようにしている。痛みを受け入れることを説得するのが政治の役割だが、世界的に逆の機能を政治が果たしてしまっている」

「中福祉という現在の路線をそのままにしておけば、財政の辻つまを合せるために、いずれ高負担にならざるを得ない。許容範囲にとどめるには高齢者に対する医療・介護分野のカット、福祉のスリム化に取り組む必要がある」

──そうした財政状況を考えれば、金融政策の正常化は難しいとみるべきか。

「財政のことを考えれば、低金利は必須。その低金利をいつまで続けられるかが問題だ」

──デフレ脱却に向けたこれまでの金融緩和策をどのように評価するか。

「私は基本的にゼロ金利政策を超えて量的緩和のようなものを追加しても、それに見合った追加的な効果は極めて乏しいものしかないとの理解。景気刺激策という意味での追加的な効果は限定的だったと思うが、金融政策が国債管理政策に取り込まれていったということが起こった。主たる効果は財政コストを下げていることであり、やめるわけにはいかなくなっている」

──今後の財政と金融政策のあり方は。

「さまざまな理由で物価が上昇することはあり得る。中期的にはインフレが心配であり、インフレになった時に金利を引き上げれば、国債費が増大して財政が持たなくなる。そのために利上げを遅らせればインフレが加速する。今後、何らかの要因で物価が上がり出した時に、対応できない状況になっていることを懸念している」

「金融政策も財政政策も今のうちに正常化するのが賢明だ。金融政策はゼロ金利政策を維持する姿にバランスシートを縮小し、財政は健全化を進めるべきだろう。今はほとんど完全雇用の状況にあり、好調な海外経済に支えられているラッキーな面がある。今のうちにやれることをやっておくべきだ」

(中川泉 伊藤純夫 編集:田巻一彦)