では、私たちのDNAにふさわしい食事とは?
――縄文人に学ぶ理想的な食生活

 ライオンやチーターなどは、速く走る力が備わっていることで獲物を捕獲できます。サルは小さいけれど、木から木へと飛び移ることで果実などを取ることができます。このように、あらゆる動物はその種ならではの運動機能を持ち、それを使うことで食べ物を得てきました。

 人類が他の動物と大きく違うのは、脳が発達していることです。唯一、人類だけが、発達した脳のおかげで「農業」を手にしました。時期の差こそあれ、地球上のあちこちで人類は農業を始め、米、麦、トウモロコシ、ジャガイモなどをつくり、恒常的に食料を確保することに成功しました。

 どこの地域でも、農業の発展とともに人口は激増します。脳が発達していたからこそ、人類はここまで種を増やすことができたのです。

 一方で、人類が誕生したときには農業というものは想定されていなかったはずで、もともと組み込まれたDNAにそぐわない食生活を始めてしまったとも言えます。

 日本は稲作文化の国であると認識されていますが、本格的に稲作が始まったのは弥生時代になってから。大陸からの渡来民によって水稲耕作が伝えられてからです。それまでずっと日本列島で暮らしていた縄文人は、狩猟採集によって食べ物を得ていました。

 そして、縄文時代は1万2000年以上という長きに渡って続いており、それは、昭和や平成の時代とは比較になりません。

 私たちのルーツについて、古くから住んでいた縄文人と、大陸からの渡来人が徐々に混血していき現代の日本人になっていったという説が支持されています。しかし、国立科学博物館の神澤秀明氏らの研究では、現代の日本人が、より縄文人のDNAを強く受け継いでいることが証明されました。

 これらの事実を踏まえれば、私たちは本来、1万4000年前の縄文人のように生きていくようにつくられていると考えていいでしょう。

 ところが、とくにここ100年くらいで、私たちは勝手にそれを変えようとしてきました。その結果として、さまざまな病気を生み出してしまったのだと私は考えています。

 いま、「糖質制限」が広く認識されるようになり、なかには、よくわからないままに間違ったことを述べている「専門家」もいます。また、「糖質制限は体によくない」「日本人には向いていない」という主張もあります。

 新刊『医者が教える食事術 最強の教科書』は、これら他者の言い分について論破していくことではありません。しかし、私は生化学をきちんと学び、エビデンスのある論文を読み、多くの糖尿病の患者さんを診てきた経験から自信をもって本書の食事法を提言しています。そのことだけは、はっきりと申し上げておきましょう。