AR-H1

 春のヘッドフォン祭で国内公開され、7月に正式発表となったAcoustic Researchの「AR-H1」が9月29日にいよいよ発売となる。高級ヘッドフォンの象徴とも言える“平面駆動型ユニット”を使用し、価格は8万円台。気軽に手を出せるほどではないが、内容を考えるとかなりがんばった価格設定になっている機種だ。

 その発売に先立ち、数週間じっくりと聴き込んでみた。

 本当にほれぼれする音だ。解像感が緻密で、音離れがいい平面駆動型の特徴に、セミオープン型の開放感が加わる。音の立ち上がりが速く、ボーカルや楽器の見通しにも優れる。一方でダイナミック型に負けない低域の力感があったり、10Hz~60kHzと非常に広い周波数帯域をカバーしたりと、万能に使える機種である。

 特にボーカルの再現力が素晴らしくクリアだ。ひとりひとりの声質や子音、ブレスといったニュアンスを明確に描き分ける。ここはこもりの少ないセミオープン型であるという点も利点になっていると思う。

平面駆動型の魅力が存分に味わえる

 この記事では、そんな特徴を持つAR-H1に迫っていこう。

 まずは最大の特徴である平面駆動型ユニットについてだ。一般的なダイナミック型ユニットとは根本的に異なる仕組みで動作する。開発の歴史は古いが、ここ数年、脚光を浴び始めている。その背景には、ヘッドフォン市場の世界的な広がりがあるはずだ。海外の高級モデルを中心に、数十万円と高価な機種が多い。庶民にはなかなか手が出ないが、イベントなどで実機の音を耳にし、関心を持つ人が増えてきている。

 ダイナミック型ユニットはお椀やドームのような形の振動板の後ろに、ボイスコイルを付けて振動させる。対して平面駆動型は、振動板が文字通り平らだ。その振動板には電極(コイル)が引いてあり、小さな穴をたくさん空けた、磁石と磁石で挟む構造になっている。ここに信号を入れると、振動板の周囲に磁界が発生し、磁石と反発したり引き寄せられたりする。これに連動して、振動板が動く仕組みだ。

AR-H1
イヤーパッドを外すとドライバーユニットが見える

 振動板が軽いので音の立ち上がりが早いこと。ダイナミック型のように振動板の変形による音の歪み(分割振動)が少なく、音が平面で伝わる点もメリットだ。少し専門的な話になるが、この軽さによって出力インピーダンスが変わっても周波数特性が変わらない(音の高低で特性の変化が出にくい)点でも有利だ。AR-H1の場合は、コイルを振動板の片面だけに配置して、さらに軽量化を図っているようだ。

 平面駆動型のユニットは、一般的に解像度が高く、細かな情報も再現することができると言われている。弱点は大きくて、高価になる点だ。構造上、振動板の振幅が少ない。これは歪みの少なさにつながるが、音圧が取りにくく低音の力感では一歩譲ると言われている。「正確で端正な音」といった評価はこういった特性を反映したものだろう。

 AR-H1に関して言うと、課題というべき低域の力感も十分にあり、大口径のダイナミック型ヘッドフォンから乗り換えてもまったく違和感がない。一方で中音、高音の抜けの良さは圧倒的で、ここまで聞きやすく、開放感のあるサウンドは、同価格帯の機種ではなかなか得られないと思う。

 感度が92dB/mWと低く、少々音量が取りにくいので、できれば据え置き型の高出力なヘッドフォンアンプと組み合わせたいが、iPhone 6sでも音楽を普通に聴くのに十分な音量が得られた。スマホをはじめとしたポータブル機器との相性も決して悪くない機種である。

落ち着いているが、モダンな感じもするスクエアな本体

 外観についても見ていこう。

 幾何学的なパターンを組み合わせて抜いたセミオープン型のグリルはモダンアートのような雰囲気。ハウジングやアームは金属製でしっかりとした安定感がある。高級感あるブラックとシルバーを基調にした落ち着いたカラーだが、スクエアな形状にはインパクトがある。

AR-H1
独特な形状のハウジング部

 イヤーパッドは肉厚でクッション性が高い。金属製のバンドワイヤーの内側に、本革性で幅広のヘッドバンドを用意し、装着すると自動的に適切な位置に調節される。左右の締め付け感はソフトだ。重量は421gあるが、長時間装着しても、まったく不快にならない快適さだ。

AR-H1
クッション性の高いイヤーパッド

 耳とドライバーが接する部分にはスポンジが使われているが、よく見るとそこから強力なネオジウム磁石をアレイ状に配置したドライバーの一部がうっすらと見える。サイズは86mmで角型。音を通すため、磁石に空けられた小さな穴も確認できた。

AR-H1
ケーブルは両出しタイプ

 ケーブルは交換式。2.5mm2極の両出しタイプで、標準では長さ1.2mで3.5mm3極端子のタイプだが、純正の交換ケーブルも用意する予定。バランス駆動用ケーブルはそのひとつで、ウォークマンなどが採用する4.4mm5極端子にも対応できる。6N-OCC素材を利用した高級版も用意する。

AR-H1
標準ケーブル

万能的に使える平面駆動型ヘッドフォン

 試聴用のプレーヤーとしては、リファレンスに使っている、Astell&Kernの「A&ultima SP1000」に加え、同じAcoustic Researchの「AR-M2」を用意した。

AR-H1

 緻密な再現ができるため、切れ味が鋭いSP1000との組み合わせも魅力だが、AR-M2と接続すると、このブランドがどういう音を目指しているのかがよく分かる。アナログ的な滑らかさとハイレゾ時代のワイドレンジな再生が調和した音色は美しく、チャーミングだ。AR-M2の実効電圧は3.7Vrmsと高出力で、AR-H1との組み合わせでも十分に余裕感がある。

 参考用に手持ちの「HD800」「HD700」あたりと比べてみた。ダイナミックドライバーを使った開放型ヘッドフォンとしては定番の機種。価格帯で近いのはHD700(実売7万円台半ば)だが、「情報の緻密な再現」やボーカルを中心とした「中音域の見通し」の良さという点では上位のHD800(実売19万円弱)と比べても遜色ないものだった。

 音場の表現が苦手と言われるヘッドフォンだが、AR-H1の場合、スピーカーのような前方定位こそ得られないが、空間の広さや水平方向の位置関係はもちろん、高さ方向の位置関係も明確に伝わってきて感心する。複数の歌い手が交互に登場する楽曲でも、どのような位置関係で誰がどのように歌っているかが明確だ。

とにかくボーカルが美しい、アニソンとの相性もいいのでは?

 冒頭でも触れたが、AR-H1は中音域の見通しの良さが本当に優れる。ボーカルの明瞭さに加えて、バックで鳴っているギターや電子楽器など、音域が近くて埋もれてしまいがちな音も明確に分離する。結果、細かな表情に気付き、ハッとさせられる。音数を詰め込んだJ-POPなどでは特にそうで、聴こえなかった音やニュアンスを発見して驚くことが多かった。

 また音の立ち上がりの速さも魅力。子音が発音するタイミングが早く明瞭だし、ドラムをたたく際のスティックさばきなども非常に細かく描写する。そのためか、楽曲が気持ちアップテンポに聴こえ、スタジオ収録のアルバムでもライブ会場にいるような臨場感が出てきて爽快だった。

 AR-H1は万能選手だが、こうした特徴からアニソンを最高の音質で聴かせるヘッドフォンでもあると感じている。最近ではハイレゾ音源が積極的にリリースされ、ヘッドフォン関連イベントなどでも、デモされる機会が多いアニソンだが、しっかりとした再生は意外に難しい。

 気になる人は以下の楽曲当たりから確認してみてはどうだろうか?

TAIL WIND

ChouCho ColleCtion "bouquet"

 ポイントとしては、まずはボーカルを魅力的に聴かせること。音源に含まれる音数が多いため、分離の良さも決め手になる。またトーンバランスもシビアに調整されているため、低域から高域まで強調がなくバランスが崩れない点が求められる。こうした特徴にAR-H1はベストマッチだ。

 最後に、別売オプションとして投入をアナウンスしていた4.4mm5極のバランス駆動用交換ケーブルの価格と発売時期もようやく発表になった。4.4mm5極プラグは「NW-WM1Z」「NW-WMA1A」「NW-ZX300」などウォークマンの上位機種のほか、Acoustic Researchから発売予定の「AR-M200」といったプレーヤーが採用している。

AR-H1

 OFC(無酸素銅)素材のスタンダードタイプが税別1万7800円。6N-OCC(単結晶状高純度無酸素銅)素材のハイグレードタイプが税別5万9800円。ともに10月下旬の発売予定だ。