日本の新卒者はまたしても就職難に直面している。一流大学の卒業生ですら就職がなく、「MARCH卒でも今年は3~4割が就職浪人では」とまことしやかにささやかれている。

 新聞の一面には「大卒内定、来春28%減」の見出しが立つ。その危機感は学生自らが痛感するところだ。「企業インターンに熱心な先輩ですらも就職できなくなっている」と一橋大学の学生が話すように、誰もが来年はもっと大変になることを恐れている。

 こうした状況はデフレ懸念が強まった02年度にほぼ匹敵する。結果、ある現象が起こった。中国に職を求めての若者の大移動である。

 「職は中国にあり」――。03年~04年にかけて多くのメディアが中国を取り上げ、多くの日本の若者がそれに続いた。日本からの就職希望者が殺到したそのピークから5年、果たして今、中国は日本の若者を吸収する受け皿になれるのだろうか。上海ではいまだ日本人の仕事ぶりが歓迎されているのだろうか。

上海は世界最大の日本人を抱える街だが

 景気をいち早く回復させた中国への期待感は強い。カネやモノの流れは相変わらずここに向かうが、ヒトもまた例外ではない。とりわけ国内外から多くの企業が集まる上海は、職のメッカでもあり、国内のみならず欧米、アジアからの海外の人材がここを目指して来る。

 日本の若者が大挙して上海に進出したのは04年前後にさかのぼる。中国が世界の工場、世界の市場へとシフトするなか、上海就労は「一風変わった中国好き」の少数派から、「中国語ゼロの素人」と一般化する傾向を見せた。現地で働くというのは、日本本社からの駐在として派遣されて来る以外に、自ら乗り込み、人材紹介会社を通じて「現地採用」という形で職を得るパターンがある。

 上海に長期滞在する日本人は、03年は1万5718人、04年は2万3527人、05年は4万0264人と急増し、07年には4万7731人でNYを抜き、世界最大の日本人(長期滞在者)を抱える街へと成長したが、このパイの拡大を支える存在にこれら「現地採用」という日本からの若者の移動があることは無視できない。

(*1)数字は外務省の「海外在留邦人数統計」。なお、同統計は在留届ベースでの数字が反映されているが、一般的にはそれを上回る数が潜在していると受け止められている。

 職種は通訳、翻訳、秘書、営業、管理職など。月給の相場は8000元~1万5000元(04年時点で1元=約15円)。専門職ならば2万~3万元。04年当時は事業の拡大期で、上海全体に「日本人なら誰でも」のニーズは確かに存在した。「中国語ゼロ、学歴、職歴ともにゼロでも日本人が欲しかった」とある現地企業幹部が振り返るように、「あうんの呼吸がわかる日本人」「まじめで嘘をつかない日本人」はそれだけで存在価値があった。