新刊『心に届く話し方 65のルール』では、元NHKアナウンサー・松本和也が、話し方・聞き方に悩むふつうの方々に向けて、放送現場で培ってきた「伝わるノウハウ」を細かくかみ砕いて解説しています。
今回の連載で著者がお伝えするのは、「自分をよく見せることを第一に考える話し方」ではなく、「聞いている人にとっての心地よさを第一に考える」話し方です。本連載では、一部抜粋して紹介していきます。

声の大きさ・高さ・スピード・間が
一定にならないよう変化をつける

 見た目も好印象、声も心地よく、話す内容もわかりやすい。でも、しばらくその人の話を聞いていると眠くなってしまい話の中身がわからなくなるという人。周りにこんな人っていませんか? どうしてそうなってしまうのでしょうか?

 考えられる原因としては、声の大きさ・高さ・スピード・間のどこかが、ほぼ一定になっていることがあげられます。これらが一定であるということは、ある意味安定感のある話し方とも言えます。しかし意外に思われるかもしれませんが、その安定感が、話しことばではマイナスに働くことがあるのです。

 考え方を理解していただくために、情報を伝える別の手段である活字のメディア、例えば雑誌やネットの記事について考えてみましょう。

 1ページの記事には、まず大きめの文字でタイトルがあります。本文はそれに比べ小さな文字です。話題が変わったり、話を仕切り直すときは改行します。重要なことばはカギ括弧で囲まれます。字体(フォント)だって変えられますよね。Web画面やカラー印刷なら、様々な色も使えます。このように活字のメディアでは、話の構成、重要なところを他の部分と区別したり、強調したりするのに様々な方法があります

 では話しことばでは、どうでしょう? 活字メディアで行っているこうした様々な工夫を、自分が発した音声だけで変化をつけていくしかないのです。話したことばは、発した直後に消えていきます。前に話した文章と声の大きさ、高さ、スピード、間などが変わらなければ、改行もなく、フォントも変わらず、カギ括弧もない文章がダラダラ続いているように音声的には聞こえてしまうのです。聞いていて退屈になるのは当然ですよね。

 退屈させないためには、声の大きさ、高さ、スピード、間に変化をつけるようにしましょう。

 例えば、声の高さでしたら、高い・ふつう・低いを使い分けましょう。話題が変わった場合など、書いた文章なら改行しているような所は、前の文章よりも少し高い音で始めると話が変わったことを印象づけられます。また、強調したい部分はもちろん高い音でもいいですし、逆に低い音を使っても構いません。重要なのは、今までの部分と違う音の高さにすることで他の部分との違いを出すことです。

 スピードは、重要なところではゆっくり話すのはもちろん、これまでのおさらいや逆にスピーディーな論理展開を強調したい場合は、たたみかけるような速いスピードにしたほうが効果的です。ただし、いくら速くとは言っても、聞き取りにくいスピードはダメですよ。

 では、音の大小、高低、スピードをどんなふうに使えばいいのか、まず音の大小・高低からです。次のテレビショッピングの話し方の例を一つの参考になさってください。

「この高級フライパン。切れ味抜群の包丁10本セットと全部まとめて、9800円!」
 この9800円という値段を強調したい場合、ふつうは、

「きゅうせんはっぴゃくえん!」

 と声を大きくしたり、高くしたりしますよね。しかし、

「きゅうせんはっぴゃくえん!」

 と声を小さくしたり、低くしたりするのも、聞いている人が「え? ふつうとちがう。なに?」と少しびっくりさせ、注意をひくこともできます。ただし、小さい声、あるいは低い声を強調で使う場合は注意が必要です。それは、必ず聞き手が聞き取れるように工夫するのを忘れないこと。具体的には、マイクを使う場合はマイクを口元に近づける、近くにいる人に話す場合は、強調部分はその人に耳打ちするように近づく、などの方法をとってみてください。

 スピードで強調する場合は、

「…包丁10本セットと全部まとめて、きゅう せん はっ ぴゃく えん!」

 と、1音1音をしっかり言うようにすると、スピードが自然に落ち、強調できますよ。

 また、間(沈黙)は、書いた文章なら大きな見出しになるような重要な部分では、その見出しの前後でたっぷりとるようにします

 例えば、学校の先生が定期試験の前、生徒に勉強すべき範囲を聞かせたいとき、こんなふうに言いますよね。

「次の定期テストで必ず出るのは、25ページから28ページだぞ~、忘れるな~!」

 この文章を、間もあけずに全体を大声で言っても大事なページ数は頭に残りにくいものです。ではこうすればどうでしょう?

「次の定期テストで必ず出るのは~、(黙って生徒を見回す。2秒黙る)
 25ページから~ (2秒黙る) 28ページ! (2秒黙る)
 忘れるな~!」

 いかがですか? 実際に声を出して2秒黙っていただくと、しっかり強調できるのがおわかりになると思います。2秒って話しているほうは長く感じますよね。でも聞いているほうはもっと長くても大丈夫なんですよ。書いた文章でも、大きな空白に囲まれたことばは、どんなに小さな文字で書いてあっても目立ちますよね。その空白の役目を果たすのが「間」なのです。

 発したらすぐに消えてしまうという特性を持つ、音声による情報の伝達。相手にしっかりとその情報を届けるには、お話ししたような音声上の工夫をして聞き手が眠くなるのを防いであげるよう心がけましょう。

* 心に届く話し方ルール *

声を出して2秒黙ると、
しっかり強調できる

松本和也(まつもと・かずや)
スピーチコンサルタント・ナレーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から株式会社マツモトメソッド代表取締役。
アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た! 生きもの新伝説」「NHKスペシャル」「大河ドラマ・木曜時代劇」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況など。
現在は、主に企業のエグゼクィブをクライアントにしたスピーチ・トレーニングや話し方の講演を行っている。
写真/榊智朗