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「非・被災地」は何を学ぶのか――「東北」から未来をつくる起業家を追う
【第3回】 2011年10月13日
著者・コラム紹介バックナンバー
加藤徹生 [社団法人wia代表理事]

【第3回】
東北で活躍する「最年少の起業家」
漁業と地域コミュニティの再生を目指す崔炳康

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 第1回で登場した渡辺一馬。第2回で取り上げた鹿島美織。これまでこの連載では、経験豊富なアントレプレナーを紹介してきた。今回取り上げるのは、東北大学の学生の新しい挑戦だ。彼の泥臭いストーリーからは、「誰もが社会を変える」ことができるということを感じ取れるだろう。そこには経験や能力よりも、むしろ、誰かのために行動したいという思い、そしてそれを愚直に行動に移すことが重要なのだ。

東北で活躍する最年少のソーシャル・アントレプレナー

 「漁師さんってかっこよくないですか。あれで食えれば最高だと思いません?」

海を見つめる崔炳康。漁業再生のために奔走している。

 崔炳康(さい・あきやす)は気仙沼市唐桑町で活動する東北大学の学生だ。ボランティアとして訪れたこの町で、壊滅的な被害を受けた漁業の実態を目のあたりにし、それ以来、唐桑の特産品であるカジキマグロの販促のため、関東と東北を往復する日々を続けている。

 気仙沼地域をはじめ、沿岸部の漁業は津波により壊滅的被害を受け、船舶のみならず、保冷・加工施設の損害により、事業の再生の道を閉ざされている。さらに、旧来の漁業の生産性は低く、設備の復旧とともに高付加価値のビジネスモデルを探さざるを得ない状況にあった。

 人命救助が一息つくと、課題は獲った魚をどうやって市場に届けるか、ということに移る。加工設備も冷蔵設備も破壊され、魚が取れたとしても、鮮度を保って流通させることは困難な状態になってしまった。このままでは、漁師が暮らしていくこともできなければ、漁業で生計を立ててきたこの地域が町として存続していくこともできない、そんな状況だった。

 崔は、唐桑で壊滅に瀕した港を目にし、震災前から衰退しようとしていた漁師の実態を見聞きした。その中で、漁師の年収が生活保護を受ける人たちの水準よりも低いことが多々あると知る。その矛盾がなぜ生まれてくるのかに興味を持ち、また一方で、知り合った漁師たちに憧れ、「唐桑のために何かしたい」と動き始めた。

 最後に崔に会った9月30日。震災から約半年が過ぎ、被災地に徐々に活気が戻ろうとする頃、彼はこう言った。「上手く進んだんですよ。でも、僕は役に立たなかった」

 この言葉に、僕は聞き覚えがあった。そう、これは多くのソーシャル・アントレプレナーが一度は抱えることになる、彼らに特有のジレンマだった。

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加藤徹生 [社団法人wia代表理事]

社団法人wia代表理事/経営コンサルタント。
大学卒業と同時に経営コンサルタントとして独立。以来、社会起業家の育成や支援を中心に活動する。 2009年、国内だけの活動に限界を感じ、アジア各国を旅し始める。その旅の途中、カンボジアの草の根NGO、SWDCと出会い、代表チャンタ・ヌグワンの「あきらめの悪さ」に圧倒され、事業の支援を買って出る。この経験を通して、最も厳しい環境に置かれた「問題の当事者」こそが世界を変えるようなイノベーションを生み出す原動力となっているのではないか、という着想を得、『辺境から世界を変える』を上梓。
2011年6月末より、東北の復興支援に参画。社会起業家のためのクラウドファンディングを事業とする社団法人wiaを、『辺境から世界を変える』監修者の井上氏らとともに9月に立ち上げた。
twitter : @tetsuo_kato


「非・被災地」は何を学ぶのか――「東北」から未来をつくる起業家を追う

  東日本を襲った大震災から7か月。多くの避難所は閉鎖され、被災地には仮設住宅が立ち並ぶ。一方東京では、震災などなかったかのような空気が流れ、今も福島を蝕む放射能すら、忘れられてしまったかのようだ。
  だがまさにいま東北では、「新しい未来」をつくろうと動き始めた起業家たちが生まれている。本連載では、彼らの足跡を追い、その構想を見ていく。岐路に立つ日本にあって、いち早く「変わっていくこと」を突きつけられた被災地から、「非・被災地」にいる我々はいったい何を学べるのだろうか。

「「非・被災地」は何を学ぶのか――「東北」から未来をつくる起業家を追う」

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