ナケレバ、ツクレバ(世の中になければ、自分たちの手で創ればよい)という姿勢を明確に打ち出す中堅化学メーカーのクレハ。1944年に呉羽紡績から化学品部門が独立した呉羽化学工業(現クレハ)は、家庭用食品ラップ「クレラップ」に代表される独創的な製品を世に送り出してきた。だが、2012年に8代目となった小林豊社長は、「近年は、社員一人ひとりのアイデア創出力が落ちている」という危機感を抱く。改革と革新を唱える必然性を聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

クレラップの会社の技術が米国のシェール資源開発で注目を浴びる理由小林 豊 クレハ代表取締役社長 Photo by Masato Kato

――今年9月から、米国で開発が進むシェールオイル・ガスの掘削現場で使われるPGA(ポリグリコール酸)樹脂事業が本格的に動き出しました。昨年10月には、米テキサス州で、日本のエンジニアリング会社の日揮と合弁事業を立ち上げています。家庭用食品ラップで知られる「クレラップ」のメーカーが、何故に資源開発の最前線に関わっているのですか。

 端的に言えば、1994年にクレハがPGAの量産化に世界で初めて成功したことによります。研究を始めたのが86年ですから、さかのぼれば今年で31年目を迎える。私が初代の事業部長ですから、我が子のようなもので、65歳にして非常に興奮しています。いよいよ、独自の技術力で世界を席巻する日が近づいてきました。

 もともとは、32年に米デュポンの技術者が開発したものでしたが、彼らの技術力でも量産化できませんでした。その後、日本のある大手化学メーカーも挑戦したそうですが、途中で断念したそうです。私たちだけが、最後まで諦めなかった(笑)。

 シェールオイル・ガスの掘削現場で使われる私たちのPGA樹脂は、プラスチック製品の一種で、優れた生分解性、高い強度、ハイバリア性を持っています。一定の時間が過ぎると、水と地熱の力によって、二酸化炭素と水に分解されるという特質があり、最終的には消えてなくなります。以前から構想はあったのですが、近年になってから、この特質が資源開発の最前線で注目されるようになったのです。