自称「ダメなフェミニスト」が語る米国の女性差別の日常劣等感を抱えている人が多いほど、差別に対する不満は大きくなる(写真はイメージです)

要約者レビュー

「フェミニズム」と聞いても、イメージがわきにくいだろうか。もしくは、怒りっぽい女性を想像して敬遠してしまうだろうか。どちらの方にも、本書『バッド・フェミニスト』をぜひ開いてみていただきたい。

自称「ダメなフェミニスト」が語る米国の女性差別の日常『バッド・フェミニスト』
ロクサーヌ・ゲイ(著)、野中モモ(訳)、394ページ、亜紀書房、1900円(税別)

 著者は、1974年生まれの、ハイチ系黒人女性だ。現代アメリカに生きるアラフォー女性であり、作家、大学教員として活躍している。新聞や雑誌への寄稿も多い。女性を不利な立場に置く現実に敏感に反応して抗議するが、女性蔑視に満ちたラップを爆音で聞くし、男嫌いではまったくない(むしろ、「男が大好き」)。だからこそ、「よいフェミニスト」でない「バッド・フェミニスト」を名乗る。

 本書は、さまざまな媒体に発表された彼女のエッセイを集めたものである。アメリカのエンタテインメントや、社会の中に隠れた、性や人種の問題をすくいとり、シニカルなユーモアたっぷりに、知的に語る。本書は刊行後アメリカで大きな話題を呼び、現時点のAmazon.comにはおよそ400件ものレビューが投稿されている。彼女の、意志的でありながら、現代的で柔軟なスタンスが、それだけ共感を呼んだということだろう。

 男女間の摩擦、性差の問題は、男女ともに日常では伝統的な価値観や感覚で語ってしまうことも多いが、1人の大人として自由や平等を大切なことと考えているのならば、紋切型を超えて自分なりの意見を持ちたいところではないだろうか。本書のものの見方に触れることは、あなたの人間性を一段深めてくれるはずだ。 (熊倉 沙希子)

本書の要点

(1) フィクションの世界に登場する女性たちについては、男性たちと違って、好感度がクローズアップされてしまう。
(2) 巷にあふれるポップ・ソングにも、女性蔑視や、性暴力が隠れていることがある。
(3) フェミニズムという運動にはあまりに多くのことが背負わされ、フェミニストを名乗る人にも多くのことを期待されてしまう。著者は、フェミニストの主流から外れた関心や意見も持っているし、フェミニストの看板は背負えないが、それでもなおフェミニストでいたいと思う。だからこそ「バッド・フェミニスト」を名乗る。