時間がなくても「シングルタスク」で取り組めば解決する

 この「リズ事件」の数か月後、私は同様のリーダー育成プログラムをある組織でおこなった。そのときも、幹部のリカードが遅刻した。

 とはいえ、彼は事前に電話で遅刻する理由を説明した。仕事で緊急事態が生じたという納得のできる理由だった。

 そして開始時刻から20分ほど遅れてやってくると、謝罪し、すぐさま全力で研修に取り組んだ。そして職場から離れた会場にいるあいだ、オフィスに連絡をいれるだけのもっともな理由があったにもかかわらず、目の前の作業に没頭した。

 リカードはまた、自分の性格で改善したい点を率直に認めた。組織の力を伸ばしたいという願望があってのこととはいえ、ミーティングの最中につい熱くなり、冷静さを欠いてしまうところがあると自己分析もした。

 とはいえ、人は相手に完璧さなど求めない。ただ相対したときには互いに胸襟をひらき、率直に意見交換をしたいと思うだけだ。

 プログラムを終え、アンケートを実施したところ、「今回の研修でよかったと思う点」としてもっとも称賛されたのは、リカードが本気でプログラムに取り組み、周囲とオープンに関わったことだった。

 その結果、幹部と中間管理職のあいだの溝を埋めることができそうだという希望が、組織のなかに生じた。

 シングルタスクを実践するリーダーは、仕事にもチームにも責任をもって関わっていることを、身をもって示す。

 いっぽう、どんな言い訳があるにせよ、マルチタスクに腐心するリーダーは、傲慢で部下を軽視していて、チーム統率に無関心だと誤解される。そうなれば、組織崩壊を招きかねない。

(本原稿はデボラ・ザック著『SINGLE TASK 一点集中術』から抜粋・編集して掲載しています)