米国政府のこうした行動は、天安門事件後の在米中国人を在住資格の面から救済するという側面もあったのだが、中国政府はそう受け止めず、近代化を進める中国にとってかけがえのない貴重な人材の横取り行為だと見ていた。

 当時、私も含め、海外に居住する新華僑の学者たちは、“頭脳の流失”に苦悩する中国政府を次のように説得していた。

 まず、この人材流失現象を人材の“海外貯蔵”と見るべきだ。中国では、まだハイレベルの人材を使いこなせないケースが多い。だから当面は、科学技術が進んだ海外にたくさんの人材を蓄えて、活用できる時期が来るまで養成していく方がよい。中国人はどこへ行っても、国籍を変えても、中国出身であること、そして故郷を思う気持ちは絶対に忘れないのだからと。

 拙著『新華僑』が2000年1月、中公文庫で文庫化されたとき、私は第9章を追加させてもらった。その最後に、こう書き込んだ。

「海に流れ込んで2度と母なる黄土高原に戻らない黄河の水のような新華僑だが、世界経済という大海のなかを縦横無尽に流れる大きな海流となって、いつかは中国という大陸に海の幸を携えて押し寄せるに違いない」

 どうやら海外に“貯蔵”している中国人留学生、新華僑たちは、そろそろ大挙を成して大きな海流となり、中国に押し寄せる時期が近づいているようだ。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)