地域医療の質と量を
維持するためにも不可欠

 しかし震災によって、そうした病院の意識に変化が表れた。

 くわえて2010年2月、厚生労働省が医療情報の安全管理に関する新ガイドラインを発表し、外部保存に対する規制が緩和されたことも流れを大きく変えたようだ。

 規制緩和を想定して早くから準備を進めてきたGEヘルスケア・ジャパンは11年3月にソフトバンクテレコムとクラウドコンピューティングを活用したデータホスティング事業の共同展開を発表、同年7月、CT、MRIなどの画像情報を外部のデータセンターに保管する新サービス『医知の蔵(いちのくら)』を発表。第一弾として今月から埼玉県の深谷赤十字病院に提供する。

京都プロメドは、京都に診断画像データの読影センター、大阪にデータセンターを置き、データセンター経由で病院や診療所と画像情報をやり取りしている。5年以上も前からクラウドの概念に基づく医療情報システムの運用を実践してきた

 国内の500キロ以上離れた別々の場所に計2ヵ所のデータセンターを設けており、万が一地震などの災害が発生してもデータ消失を免れられる仕組みだ。

 病院がデータセンターの活用を検討するようになったのは、災害対策ばかりが理由ではない。

 河上氏は、「診断装置の高度化とともに、画像データの容量は年々大きくなり、保存容量を拡張するための病院の投資負担も重くなっています」と指摘する。

 通常、病院は患者の画像データを過去数年にわたって保存する。高齢化とともに慢性疾患の患者は増える一方で、そのぶん、保存すべきデータもどんどん膨らんでいく。それをすべて院内で保管するとなると、膨大な設備投資が必要とされる。ただでさえ病院の経営難が深刻化するなか、こうした負担増は経営をますます圧迫し、地域医療の質と量の維持にまで悪影響を及ぼすことになりかねない。

 外部データセンターによる大容量データ保存の仕組みを利用すれば、病院は先行投資コストから解放される。保存するデータ容量に応じた料金での運用が可能となるので、システムを稼働させるための電気代や人件費などを削減できるのもメリットとなる。

 大切な情報を災害から守り、地域医療の持続に貢献する――。診療情報の外部保存は、診療を受ける国民にとっても非常に意義のある取り組みだと言えるだろう。