経済的余裕があれば
代償分割が行える

 まず、妹と弟のわだかまりを取り除き、遺産分割のテーブルに着くことが必要です。そしてその席では、土地・建物すべてを山田さんが相続する代わりに、代償分割を行うことを提案しました。

 これは、特定の相続人が相続財産を一人で相続する代償に、他の相続人に対して相応の代償金を支払う方法です。相続人間の不公平解消を目的としています。幸い山田さんには、代償金と相続税などの支払いを行える経済的な余裕があったため、提案が可能になったのです。

 山田さんとその家族が、現在お住まいの不動産に住み続けることを最優先事項にしました。しかし、相続は争族(親族間で遺産を巡って争うこと)だとも言われます。もし法定相続人間で合意に至らなければ、家庭裁判所での調停・和解・裁判にまで発展しかねません。

 私はいざというときに備えて、山田さんの合意を得た上で、私が信頼するNPO「法人後見パプリカ」の弁護士にも支援してもらうつもりでいました。

 それから、遺産分割協議が何度か重ねられ、山田さんの提案条件で遺産分割協議書に署名・捺印が行われました。妹さん、弟さんとの関係もいままで通りです。一時は最悪のシナリオが頭をかすめただけに、私もほっと安堵しました。

 しばらくして、ひょっこり事務所に顔を出された山田さんは、開口一番「遺言をつくりにきました。家族には同じ思いをさせたくないからね」と人懐っこく微笑まれたのです。