潮流を見極める観点2 経済
人の行動を観察してチャンスをつかむ

 経済状況の変化からも事業機会が生じる。たとえば、アベノミクスの金融政策は、膨大な量の円を刷って円安に誘導することで輸出を増やそうとしたわけだが、思わぬ副産物をもたらした。それは円安による観光客の増加である。この神風は、土産物のラインナップや店舗での対応を充実させたドン・キホーテや資生堂の売上を伸ばし、瀕死体だった家電量販店のラオックスを再生させる起爆剤となった(逆に円高に振れれば逆のことが起こる)。

 その結果、日本文化が一部の観光客に正しく伝わるようになった。昔のジャポニズムといえば富士山・芸者、せいぜい映画『キル・ビル』で表されるようなイメージしかなかったが、今や「侘び・寂び」の美意識、包丁や陶器などの伝統工芸、神道の精神までが世界中に広まっている。この下地を活かし、日本文化をどううまく翻訳・加工して輸出するかが、グローバル志向の若手アーティストや起業家の仕事になるだろう。

 日本という特殊なコンテンツは容易に言語化できない。それゆえに模倣されにくく、成功すれば長期にわたる事業になる可能性がある。そのきっかけとなった意味で、インバウンド消費が増加したことには大きな意味がある。このインバウンドビジネスのように、事業機会は経済状況に依存する。

 経済状況の変化のなかでも、人口動態は予測可能な変動であり、しかもインパクトが大きい。だが、変動の進行スピードが遅いため、人々のリアクションも遅れることになる。一定の閾値を超えて初めて、人々が動き出すことなる。

 かつてドラッカーはこう言った。「変化とは人が言っていることではなく人が実際に行っていることだ」。だから傾向を見るのでなく、人が実際にどう行動しているかをよく観察しなければならない。それが経済状況を知るはじめの一歩である。

(潮流を見極める観点3、4は次回10/20公開予定)