不便な古民家の宿泊に
10万円が払われる時代

 「コト」のほかにもう1つキーワードがある。それが「ミニマリスト」だ。服や食事をシンプルにして、モノを極力もたない生活スタイルが一部の人のあいだで定着している。禅やマインドフルネスなどが隆盛するのと同じ背景をもっている。

 モノに囲まれるという生活は、必要以上に意識が奪われることを意味するので、できるだけモノを持たずに意識を清廉に保つということだ。デジタルデトックスなども広がっているように、現代の情報過多は80年代の飽食の反省のように身の回りの情報ノイズを減らそうというムーブメントと通じているのではないか。

 モノを増やすよりも減らすという考え方が強くなっている。この増殖から減縮へのトレンドの転換はあと10年は続くだろう。年収をアップさせる方法論を書いた書籍がよくベストセラーになるが、これからは今の年収を10分の1の時間で得る方法論を書いた本のほうが人気を集めるに違いない。

 このような時代では、リトリートセンター(隠居所)やスタイリッシュな空間、何もない空間、静謐な空間、意識の整った人がいる空間に人はお金を払う。バブルの時代では、豪奢なホテルに人は高い金を出した。今となっては、田舎の古民家に一泊10万円で泊まる時代である。何もない、ノイズがないことに価値がある時代なのだ。