企業ができるだけムダな残業代を払わない賃金体系をつくる対策として、これまで2回にわたって「定額残業代制度」導入の効果をシミュレーションツールでビジュアル化して説明してきました。今回は、これまでのまとめを兼ねて、定額残業代制度導入とコンプライアンスについてよくある誤解について解説します。

残業代の算出基準「基本給」を
際限なく下げることはできるか

 これまで説明したように、定額残業代制度の基本的な考え方の特徴は、役職手当、職能手当など諸手当の金額の合計を「定額残業代」として残業代の意味を持たせる点にあります。いわば残業代を「前払い」することになるわけですが、残業代を何時間分前払いするかは、基本給と定額残業代に相当する手当ての割合で決まります。

 賃金総額を変更しない場合、基本給を下げ、手当ての割合を上げれば、理論的には人件費を増加させることなく前払いする残業代を増やすことができます。しかし、どれだけ長時間労働が続いても、できるだけムダな残業代の支払いが生じないよう、残業代の算出基準である基本給を際限なく下げることはできるのでしょうか。

 答えはNOです。基本給を際限なく下げることは「最低賃金法」に抵触するからです。

 この法律では、各都道府県で1時間当たりの最低時給が決められています。たとえば東京都では、平成23年10月現在一般業種で837円です。つまり、仮に月間の所定労働時間が160時間とすると、少なくとも13万3920円(837円×160時間)を基本給として設定する必要があります。よって、労使間で基本給10万円、定額時間外手当20万円で月給30万円といった雇用契約を結ぶことはできないのです。

 注意点は、最低賃金は毎年上昇していることです。東京都では平成23年9月まで時給821円でしたが、これは昨年と比べて16円上昇しています。つまり、基本給を最低賃金に近い水準で設定すると、次年度には知らぬ間に最低賃金法に触れてしまうことも起こりうるのです。最低賃金を意識した賃金設計を行う場合、たとえば基本給を15万円にするなど、多少の幅を持たせておくことをおすすめします。