現代は不確実性が高く、企業は効率化を追求するだけでなく、「変化する速さ」も求められるようになった。しかし、その変化にも様々な側面がある。今回は、時間優位を構築する上で欠かせない、変化を捉える4つの切り口について考える。
※全3回連載第1回][第3回

時間優位構築の4つの切り口

平井 孝志(ひらい・たかし)
筑波大学大学院 ビジネスサイエンス系 教授
1965年生まれ。東京大学教養学部基礎科学科第一卒業、同大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了。マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA。早稲田大学より博士(学術)。ベイン・アンド・カンパニー、スターバックス、デル、ローランド・ベルガーなどを経て現職。早稲田大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学ビジネススクール特別招聘教授を兼務。主著に、『日本企業の収益不全』(白桃書房)、『本質思考』(東洋経済新報社)。

 第1回では、企業が、「適切なタイミング」で「適切に変わる」ために参考になる、ダイナミック・ケイパビリティ論を紹介した。ダイナミック・ケイパビリティは「変わる」ことに主眼を置いた理論で、センシング(Sensing:感知)・シージング(Seizing:捕捉)・トランスフォーミング(Transforming:変革)の枠組み(ここでは、SSTと呼ぶ)で捉えられる。

 このSSTとPDCAを組み合わせて、「時間優位の競争戦略」を語る際には、「変化」がポイントとなる。なぜなら、時間優位の競争戦略とは、組織の時間感度を高め、迅速に自己革新を行う戦略に他ならないからである。環境変化に合わせて企業が適切に変わっていくことが、競争優位を担保してくれる。そこで今回は、「変化」について論じよう。

 変化を実際の行動の中で捉えようとすると、「早さ」と「速さ」という視点が見えてくる。「早さ」は、時間軸上の一点を指し、その一点がどこにあるかということが問題になる。つまり、タイミングが早いか遅いかである。そのタイミングには2種類あり、「備え」のタイミングと、「変革」のタイミングである。

「速さ」とは単位時間あたりの変化量である。その大小が議論の対象になる。この速さにも2種類ある。一つ目は連続的・漸進的な「進化」の速さである。二つ目は変革における「転身」の速さだ。これは、変化の変化スピードとも言えるだろう。時間優位の構築に向けた変化の機会は、これら4つの切り口で捉えることができる(図5)