正解ではなく
「納得解」を探せ!

大塚:でも、夢はあるけど、自分はこのぐらいだから、これくらいが相応しいんだろうな、というのは、多少なりとも基準があるんだと思うんですけど。家にたとえると、子どもがこの学区だからというのに近い基準というのが、結婚においてもあるのではないでしょうか。

藤原:進学とか就職で、いまの30代がどういう選択行動をしてきたかっていうと、まず、ほとんどが偏差値進学、偏差値就職をしてきたという事実があるでしょ。

大塚:ええ、たしかにそうですね。小さいときから、進学の基準はやっぱり偏差値、という世代ですね。

なぜ、結婚に後悔が集中するのか?<br />一生を左右する決断を間違える本当の理由<br />藤原和博×大塚寿 対談【前編】藤原和博さん

藤原:少なくとも、東京育ちであれば完全に学校別の偏差値。どこに行きたいとか、どの先生に習いたいとかではなく、その学校のイメージと、それから自分の偏差値で入れるかどうかというところですよね。地方で、公立が私立より上位の地域についても、完全にそう。その地域で、あなたのこの偏差値だったらここって決まってしまうわけです。就職の段階でも同じようなことをしていて、どの業界でどんな仕事をしたいのかじゃなくて、業界は関係なく、自分の大学の偏差値だとこのあたりかなという感じでやってきている。

大塚:なるほど。たしかに、その学校、その会社で何をしたいかといった本質的な基準ではなく、偏差値というものを基準として、進学、就職における選択をしてきていますよね。

藤原:そう。だから、そういうふうにやってきて、さて結婚やパートナー探しをするというときに、やはり困ってしまうと思うんですよ。偏差値という指標がないじゃないかって。だから、偏差値という、いままで自分が信じてきた指標では答えは得られないし、さらに、お金という制約条件もない中で、夢はドンドンふくらんで、結局絞りきることができなくなっちゃうのが結婚なんです。

大塚:つまり、偏差値からも経済からも選べないということですね。

藤原:その二つの軸で選べないというのが、結婚というものの特殊性ですよね。ほかのものの選択には、意外と偏差値や経済という制約がある。たとえば、車や時計を買うときにも、自分には合わないなとか、金額的にとても手が出ないというのが、頭のなかの判断軸としてある。けれど、結婚というと、この二つが飛んでしまって、一見、正解がないわけです。偏差値的な正解を追ってもそんなものはないし、経済の限界から正解を追うこともできない。完全に正解のない世界に解き放たれてしまうことになる。

大塚:なるほど、わかりやすいですね。結婚については、みんなが共通にしている指標も制約もないし、その指標なり基準を自分でつくるというのも簡単にはできない。

藤原:要するに「正解」ではなく、納得できる答え、「納得解」を探すしか、なかなか相手を選ぶことはできないし、結婚もできないということなんですよ。ところが、日本の教育は「正解主義」でばかり教えるから、多くの人はその「納得解」探しが不得意なんです。結婚のタイミングを逃して、あとから「結婚すればよかった」と後悔している人の多くは、この「正解主義」にこだわりすぎたんじゃないでしょうか。どこかで「納得解」を見つけることが、後悔しないための秘訣だと思います。

大塚:藤原さんのご著書『35歳の教科書』のなかで、「正解ではなく納得解を探せ」というのくだりがあって、「正解ばかり探しているから、結婚もなかなかできないんじゃないか」という内容がありましたよね。私、この本、ずいぶんと付箋やドッグイヤーをつけて読みましたが、いまでも鮮明に焼きついているのはこの正解と納得解の部分なんです。