グローバリゼーションは「底辺」を押し上げる

 もちろん物理現象とはちがうこともあります。幸いなことにそのちがいこそがグローバル経済のすばらしいところを照らし出します。経済のグローバリゼーションで、世界中の土地や労働力や天然資源などがより効率的に使われるようになるので、世界全体の富のパイは必ず増加するのです。確かにグローバリゼーションで富める者はもっと富んでいき格差が開く可能性はありますが、それによって底辺も同時に押し上げられていくのです。

 日本で労働者に月30万円の給料を払って洋服を作っていた会社が日本の工場を閉鎖して、中国で月1万円の給料で洋服を作ってそれを日本に輸入して売るわけです。だから日本で高い給料をもらっていた人は失業して、逆に中国で仕事がなかった人に職がもたらされるのです。

 ところが、中国の労働者がどんどん豊かになっていき月1万円では働いてくれなくなって、逆に日本の失業者がもっと安い賃金でも働きたいと思いはじめるかもしれません。そして洋服を作る人の給料が中国でも日本でも月5万円ぐらいに落ち着きます。このような同一労働同一賃金の圧力が世界中のあらゆる労働者にかかっているのです。

グローバリゼーションの中で日本が中国に勝つ方法

 しかし先進国の労働者がこのような賃金低下を避けるいい方法があります。途上国の労働者がまねできないような付加価値の高い仕事をするか、サービス業のような簡単に輸入できない仕事をするかです。

 単純労働で簡単な工業製品を作るような分野では、日本のような先進国が中国などの新興国と競争しても勝てる見込みはないので、早晩そういった業種からは撤退するべきでしょう。そして途上国では作れない高度な製品に特化したり、医療や教育などのサービス産業に労働力をシフトさせていくことが重要です。そうすることによって途上国の労働者も先進国の労働者も双方ともに利益を得ることができます。

 交通機関の発達や通信手段の発達によって、グローバル資本主義というパンドラの箱は完全に開いてしまいました。このグローバリゼーションは止まることはありません。なぜならグローバリゼーションは政治思想でも経済政策でもなく自然現象だからです。

 グローバル資本主義は既得権益を打破し、国籍や肌の色や宗教に関係なく、世界中の努力を怠らない個人に光を照らし続けるでしょう。