片岡

マーケティングにも役立つ? アニメ視聴分析

 気付けば毎週50作品以上が放映されている、深夜アニメ。

 「ここまで多いと見切れない」「そもそも自分に合った作品はどれなんだ」と途方に暮れてしまう人も少なくないかもしれない。膨大な作品の中から、ヒット作の秘密を見つけたり、狙った趣向の視聴者に向けた別の作品を探していくにはどうすればいいか。

 そんな分析を進めているのが、東芝映像ソリューションの片岡秀夫さんたちだ。

片岡
アニメの見られ方のエロマンガ先生の項目

 レグザクラウドサービス「TimeOn/みるコレ」の責任者を務めている人物。片岡さん自身が、毎クール放送されるアニメのほとんどを観る、コアなアニメファンであることは、AVファンならご存知の通り。

 TimeOnのブログでは、これまでも「アニメ視聴分析」として、レグザの視聴データから毎クールごとに集計した“アニメの録画・視聴データ”を公開してきた。このデータは誰でも再利用が可能で、片岡さん自身も“アニメ視聴ログ分析ギルド”名義で、作品解説やファンならではの独自の視点を加えた、同人誌『アニメの見られ方』を頒布している。

 その内容についてはASCII.jpでも、坪井創吾さん、中村さやかさんを交えたインタビューなどを通じて紹介してきた。

 単にどの作品が支持されているかだけでなく、ウェブで公開しているデータの見方を加えることで、アニメがより多くの人に見られる手掛かりになればと考えているそうだ。8月に出た最新巻の話を中心に聞いていく。

アニメ視聴分析とは?

 レグザを使用しているユーザーの“録画予約”履歴や“視聴ログ”をもとに、“アニメの見られ方”を分析する取り組み。それが、東芝映像ソリューションのTimeOnブログで定期的に発表されている「アニメ視聴分析」だ。

 各クールごとにアニメ作品がどのようにユーザーに視聴されたかを浮き彫りにする。テレビの視聴率に近い“接触率”という数値の集計を各クールごとに続けている。夏発表のデータで、通算5クール目の集計になった。

アニメの見られ方
2017年 冬アニメにおけるライブ+再生率のデータ

 特徴は10万台を超える「膨大な数」の機器から取ったリアルタイム視聴とタイムシフト視聴を合算した統計である点だ。直近の調査では、母集団が関東18万台(春)/15万台(冬)が対象だ。“ライブ+再生率”とはオンエアもしくは録画で作品を見たユーザーの割合のこと。テレビの“視聴率”をイメージすると分かりやすい。ただし、アニメ視聴分析の母集団は、視聴率調査より圧倒的に大きいため、通常は誤差となる数%の差も、より正確に計測できる。

あにめのみられかた
同じく2017年 春アニメのライブ+再生率

 TimeOnブログでは当初、この“ライブ+再生率”を元に、各クールの人気作品を紹介したり、各話が継続してどのぐらい観られたか(残留率)といった情報を提供していた。

 一方、5クール目の分析となった、8月発表の「2017年冬アニメ」(1~3月期)、「2017年春アニメ」(4~6月期)のデータでは、○○の作品が好きな人は、××という作品も好む……など、趣向のグループ分けに注力している。これは、2016年秋クールの調査でも「ファン層分析」として取り組んでいたが、今回は「作品固有ファン層分布」として、よりいっそう深堀りした形だ。

 過去の分析結果とインタビューについては下記の記事でまとめているので合わせて読んでほしい。

3月のライオンが好きな人は、どんな作品が好き?

── 毎回新しい分析を取り入れられていますが、「2017年冬アニメ」(1~3月期)、「2017年春アニメ」(4~6月期)の調査では何を新しくしましたか?

片岡 「前回、2016年秋アニメの調査で、“ファン層分析”を入れたのですが、ちょっと原始的過ぎたので、そこをきちんとやりたいなと思ったのがひとつ。もうひとつは“Twitter分析”をより深く掘り下げたことですね。

片岡
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500
片岡
同人誌に掲載している「作品のファン層比較」
片岡
Twitter分析。視聴ランクとTweet数がどういう関係にあるかを知るため、左に“視聴ランク”の上位15作品、右に“Tweetランク”の上位15作品を並べて、同じ作品どうしを線でつないでいる。その中で、順位差が5位以内と小さいもの、乖離があるもの(どちらかが高いもしくは低い)の合計3グループに分けて分析した

── ファン層分析は、どの作品とどの作品を一緒に観たか(併視聴)に注目して、近い趣向の作品を見つける試みでしたね。

片岡 「はい。前回の調査では、上位20作品の“ファン層分析”を実施しました。横軸に全体の接触率を置き、縦軸にその作品を見たユーザーに限定した接触率を置く。(全体の接触率よりグループ内での接触率が高いので)左上にいけば行くほど、関係性が高いものになるだろうと考えました」

あにめのみられかた
従来のファン層分析、2017年4月の取材時に見せてもらった

── 理屈としては合っていたと思います。何が問題だったのでしょうか?

片岡 TimeOnブログでは今回から“作品固有ファン層分布”というデータを示しています。そもそもこういう分析をしようと思ったのは、グラフを見ていろいろ比較していたとき、直感的には『この作品とこの作品は“傾向が似ている』と感じるのに、グラフに置いてみると、必ずしもそういう結果にならなかったからです」

 たとえば“ガンダム”シリーズのように、アニメファンならとりあえず誰でも見るような“人気作品”をどう扱うのかについて議論がありました。こういう作品の接触率は、全体として高くなるので、別の作品と一緒に観ていたとしても趣向が近いことにはならないのでは? ということですね」

── なるほど。どの作品にも同じ作品が出てきて、差が付かないわけですね。

片岡 「そこで導入したのが“リフト値”(囲み)の概念です。接触率が“量的に大きいか”を単純に見るのではなく、“それぞれの番組の接触率がどれくらい多いか少ないかについて、深夜アニメファン全体と、この番組のファンを比較したもの”を指標にしたんですね。

 作品固有ファン層分布として、グラフの構成を、横軸:ある作品を見たグループ内での接触率(併接触率)、縦軸:リフト値にして、大人アニメファン全体での接触率は円の大きさで示すようにしたんです。右に行くほど、一緒に見た人が多い作品ですが、結果を見ると、円は大きい(全体での接触率は高い)けど、下に行ってしまう(リフト値は低い)作品が出てきました」

アニメの見られ方
TimeOnブログで新たに公開された、作品固有ファン層分布(グラフは3月のライオンのもの)

5つのグループに分類してみた

── 同人誌では、このデータを元に、作品のグループ分けがされています。

片岡 「冬アニメ40作品、春アニメ38作品のうち、自分自身を除いた39作品/37作品の作品固有ファン層分布を紙に出力して、配置と大きさを俯瞰的に調べてみました。直感を刺激しながら、自分が似ている作品だなと思うものを並べ、その似方を考えてみたんですね。結果、顕著なパターンがいくつかあるのが分かりました。コツコツと試行錯誤しながら、“この作品が好きな人”は“何が好きなんだろう”と個別に掘り下げた結果です。なかなかの自信作になりました」

片岡

── 親和性の高い作品がより明確になったということですね。

片岡 「はい。同人誌のほうでは、リフト値が高くて、接触率が高いものに黒矢印を入れています。作品それぞれのグラフを見比べていくと面白いんですが、“常に近い場所にいる作品”と“付いたり離れたりする作品”があるのが分かります。前者は同じグループに入り、後者はサブというか、ついでに見るような作品になります。

 まずはお互いが右上にプロットされているのを探す。メイングループを見つけて、サブとしてそういう作品も入るよね……と、メインとサブの優劣を付けたら傾向が分かりやすくなりました。具体的に言うと、“武術魔法系”“萌え系”“ダークファンタジー系”などですね。このグルーピング作業ははやっていて面白かったです」

リフト値とは?

 “リフト値”とは簡単に言えば、作品の親和性を示す指標だ。作品Aと作品Bの親和性が高いか低いかを見てみよう。

 まず特定の「作品A」を最後まで観た人の集合と、(作品を問わず)大人アニメのいずれかを最後まで観た人の集合を作る。前者は作品Aのファン。後者は大人アニメのファンで、15万台稼働しているレグザのうち、大人アニメを好きな人がどのぐらいいるかの目安になる。「最後まで観た」の定義は「最終4話のうち3話は観た」だ。

 次に接触率に注目する。作品Aのファンに絞った場合、「作品B」の接触率がどのぐらいになるかを算出する。同時に深夜アニメファン全体に絞った場合の「作品B」の接触率も算出して、その差を比べる。

アニメの見られ方

 つまり【リフト値】=【作品Aのファン集合における作品Bの接触率】÷【大人アニメファンの全体集合における作品Bの接触率】だ。

 このリフト値が1よりも大きければ「親和性が高い」作品、1よりも小さければ「親和性が低い」作品となる。

 たとえば、三月のライオンを最後まで見た人の集合に限定して『昭和元禄落語心中』の接触率を調べると、大人アニメファン全体の集合よりも1.65倍数値が大きいことが分かった。この「〇〇倍大きい」がリフト値になる。

 お分かりいただけただろうか?

 三月のライオンを最後まで見た人に絞って、昭和元禄落語心中の接触率を調べてみると22%ほどだった。一方、機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズや青の祓魔師は、25~30%を超していた。一見するとオルフェンズ/青の祓魔師のほうが親和性が高そうに見えるが、そうではない。

 三月のライオンを基準としたオルフェンズ/青の祓魔師のリフト値はともに1.0前後だった。つまりこの2作品は、三月のライオンのファンだけでなく、大人アニメファンならとりあえず押さえていた作品だったということだ。

── それぞれについて簡単に教えていただけますか?

片岡 「武術魔法系には『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』『ゼロから始める魔法の書』『ソード・オラトリア』『終末何してますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』『武装少女マキャヴェリズム』の5作品が入ります。

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ゼロから始める魔法の書
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ソード・オラトリア

 萌え系のグループにも入れているのですが、武装少女マキャヴェリズムは、このグループの中で唯一、舞台設定がファンタジーではなく学園です。ファンの人たちはバトル要素が強い作品として、受け取っていることになります。なお縦軸はリフト値4.0を上限にとっていますが、これはすごく高い数字です。

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武装少女マキャヴェリズム。武術魔法系は基本的に萌え系の作品が多く入ってくる

 萌え系は『ひなこのーと』『エロマンガ先生』『フレームアームズ・ガール』『つぐもも」。これに『武装少女マキャヴェリズム』を加えた5作品です。リフト値が高くて、接触率はそんなでもないという傾向があります。武装魔法系と比べると、リフト値は変わらないけれど、接触率が少し左に寄っています。

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ひなこのーと
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エロマンガ先生

 グラフで注目してほしいのは、武装少女マキャヴェリズムです。武術魔法系が好きな人はみな“萌”が好きだけど、“萌”が好きでも“バトル”が好きではない場合もあるのでしょう」

── ダークファンタジー系についてはいかがですか?

片岡 「ここは『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』と『ベルセルク』の2作品だけです。遠く離れてぽつんと右上にプロットされていて、明らかに同じファン層の作品なんだなと分かります。この2作品を見る人が、サブ作品として選んでいるのが、『アトム ザ・ビギニング』や『クロックワーク・プラネット』、『ID-O』ですが、いずれも分かりやすい日常ドラマではなく非日常、バトル要素があり、未来や宇宙など架空の世界を舞台にしたものという共通点があります」

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ベルセルク
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神撃のバハムート VIRGIN SOUL

── Twitter分析に関してはいかがでしょう?

中村 「まず“人気作品型”“話題先行型”“がっつり視聴型”の3つに分類し、スタッフや放送時間、キャスト、原作の有無、シリーズ構成・監督、共通するキャストなどの情報を加味して分析しています」

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3つに分類されたグループ

── それぞれの分類について教えてください。

中村 「前提としては“萌度”が高いとTwitterが盛り上がる傾向が強いですね。次に共感できるキャラクターがいるかどうかというのもポイントです。

 人気作品型について、Tweetランクの筆頭は『エロマンガ先生』でしたが、上位は『僕のヒーローアカデミア』『冴えない彼女の育て方』『ロクでなし魔術講師と禁忌経典』『ゼロから始める魔法の書』などです。ラノベ原作・キャラ萌えの作品のTweet数が多くて、視聴ランクが高い傾向が出ました。アニメファンのコアはここだと言えそうですね」

── 人気作品型は視聴ランクもTweetランクも高い作品ですが、片方に寄っている作品の傾向はいかがですか?

中村 「話題先行型は、クールによっても全然違いますが、リアル世界もので、物語がどうなるかが気になり、加えて軽い萌の要素があるものですね。共通項はコメディー要素が高く、ツッコミを入れやすい、原作がなく、物語自体の先が気になり、予想できる要素があるものです。声優やスタッフなどの共通項はあまりありません。『スタミュ』だけが女性向けでした。

 がっつり視聴型は『ベルセルク』『夏目友人帳』などで、作品の性格はあまり関係ないようです。オリジナルアニメはゼロで、漫画原作が5つあります。知っているから、つぶやかないけど、視聴はされている人気作品です。内容自体を楽しむのが共通項。一見盛り上がっていないように見えますが、悲観してはいけません。Tweetを伸ばすのであれば、仮に原作があっても、違う要素を入れるなど、多少のフックが必要かもしれませんね」

片岡
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片岡 「個別作品で見ると、『Re:CREATORS』は、総集編でTwitterが一気に盛り上がりました。これは、メテオラが自分が戦う場面の歴史を書き換えたり、自分のキャラのみスタイルを抜群にしたり、放送に合わせて公式サイトの情報も修正したりとか、制作側もグルになった仕掛けによってバズらせようとしたためです。実際Tweet数も伸びているのですが、予約率と再生率は下がっていて、総集編だからと止めてしまった人が多かったようです。番組名や説明に、“単なる総集編ではない”といった情報を入れたら変わったかもしれません」

中村 「エロマンガ先生では、第8話、12話は、原作者オリジナル脚本回で盛り上がっていましたね。主演・松岡禎丞さんご本人による、キリト(ソードアート・オンライン)の登場など、実作品のパロディーもブレイクしました。また『銀魂』や『三月のライオン』では、アニメと実写映画をつなぐプロモーションがあり、小栗旬さんら、実写キャストによるアニメのアテレコが話題になっていましたね。そういう架け橋の効果として現れていました。

 共通して言えるのは、温泉会や水着回、浴衣などは分かりやすく盛り上がりますね。話題のしやすさもあり、ライブ視聴が増える傾向です。女性視点で見た場合、魅力的なキャラクターがいる作品はイベントや声優ライブなどが多く、Tweetが盛り上がるきっかけになります。女性は妄想を膨らませて、自分好みに表現し、共感する人達によって拡散され、それがまた新たな妄想を生み出していく様子が見られますが、ポイントは“妄想する余地があるかどうか”だと思います。Pixivなどをみていても、魅力的な人物やキャラクターがいる作品は話題が長く続く傾向があるようです」

第1話の重要性が高まっている

── 5冊本をやったので、1年3ヵ月の俯瞰の話をすると。

片岡 「2016年春からやってきた取り組みを、私なりに振り返ってみると、“第3話切り”が減っていて、“第1話切り”になってきました。グラフを見ていても、第3話まで観て、接触率が安定してきたなと感じることは減り、第1話でも落ちるものは落ちてしまっている。第3話で落ちることは少ない場合が多いです。

 第2の特徴として言えるのは、見始めて途中で落とす作品が減っていることです。過去には、明らかに合わないとか、クオリティーの問題などで視聴者が離れる作品もありましたが、作品の出来が全体的に上がっているので、途中で切る“明白な要因”がない。その一方で、放送している作品の数が明らかに増えたので、全部を見切れなくなってきている。その結果として、見る作品の総量が減っている感じがありますね。

 逆に言えば、第1話の重要性がより一層高くなっているとも言えます。

 たとえば『幼女戦記』の場合、第1話では現実社会との関連性をあまり見せなかったので、単なる“ロリバトル”に見えてしまい、それでバッサリ切ってしまった人がいるのではないでしょうか。第1話切りが多いということは、一番最初のタイミングで、視聴者を捕まえ損なうと、第2話以降でフォローしても手遅れになるというタイミングです。

 また放送が始まるタイミングもあります。『アトム ザ・ビギニング』はほかの作品に比べて1週遅いタイミングでのスタートでした。となると、クールのはじまりに「せーの」で予約するタイミングから漏れてしまいます。これは損しているのではないかと。初速が大事で、第1話から勝負していくのであれば、少しでも早いスタート地点に立って走り出さないと抜けられないぞと言うことかもしれませんね」

作品のグループ分けから、ヒットの要因を探る

── ファン層分析に関しては、非常に力が入っていますが、これによって何ができるようになるのでしょうか?

片岡 「ひとつは、各ジャンルにどのぐらいの支持層がいるかが分かります。これにツィート分析も加えると、ヒットの要因がある程度、切り分けられるのではないかと思っています。

 ブレイクする作品には、様々な要素が重なり合った発火点があります。このすば(「この素晴らしい世界に祝福を」)という作品の魅力は、演じる声優さんたちによってできた絶妙の空気が良かったと言われているようです。でもこれは“この声優ひとりを起用したから”できたのではなく、集団の相互作用あってのことだと思います。これが組み合わさったから当たった作品なんでしょうね。

 毎クール何本かある“すごく視聴される”作品は、放送時間の条件が良かったりとか、原作が超有名だったりする別格の作品です。アニメファンなら誰もが注目していているから、ある意味、人気が出て当たり前と言えます。

 関心はそこではなく、あるグループの中で、放映前に知名度があったわけではない作品が、どうしてブレイクしたり、浮上するのかではないでしょうか? 企画を走らせる前の分析に役立てたり、ヒントになればいいと考えています。その違いを踏まえて企画を考えたり、知ったうえでビジネスを組み立てたい。そういうニーズに役立つ情報を出していきたいと思います。

 ヒットの要因がいろいろな要素の複合だとしたら、ヒットを起こすための要因を増やしてみてはどうか? それが成功の確率を上げられるのではないか。そのいくつかの材料を提供できればと思っています。

 もちろん、このデータだけですべての問題を解決するのは難しいかもしれません。でも、少しずつ改善を重ねて、ヒットの可能性を高めていくことはできる。また、アニメとコラボしたマーケティングを検討している企業が、どの作品にどんなファンが付いているかを知る上でも役立つかもしれませんね」