「アウフヘーベン」は
かけ声倒れに終わった

小池百合子の惨敗に学ぶ、日本人に蔓延する「対話なき排除」対話と問答を重ねて矛盾を乗り越えるというのが、「アウフヘーベン」の本来の意味。小池氏はアウフヘーベンと言いながら、一方的に「排除」を通告した。しかし、小池氏のような考え方は今、日本中に蔓延している  Photo:AFP/AFLO

 衆院選の結果が確定したが、驚いている人は少ないと思う。大方の予想通りで、与党の圧勝だった。

 今回、最も話題に上ったのは、民進党の希望の党への合流と、非合流組の立憲民主党結成だ。結果は知っての通り、野党の中では立憲民主の一人勝ちになった。

 希望の党が当初かなり注目を集めたにもかかわらず、失速したのは小池百合子代表の「排除」発言がきっかけだったことも、多く指摘されている。

 筆者も、その責任は小池氏と民進党代表の前原誠司氏にあると考えている。彼らはともに、合流・受け入れを「迎合」ではなく「アウフヘーベン」だと話した。

 アウフヘーベンは哲学用語で、邦訳では「止揚」や「揚棄」と呼ばれる。ドイツの哲学者ヘーゲルが概念化した弁証法と呼ばれる思考形式の一現象である。簡単にいえば、ある命題Aとそれを否定する命題非Aが同時に存在すると、矛盾と否定が生じるが、それを乗り越えて、新しい第3の命題を創り、矛盾を乗り越えるという論理形式だ。この「矛盾を乗り越えること」をアウフヘーベンという。

 小池、前原両代表は、希望と民進は互いに相容れない命題(政治理念、政策)を持っているが、それらを乗り越える、という意味でアウフヘーベンという表現を使ったと筆者は解釈している。

 だが、実際に起こったことはアウフヘーベンとは程遠いことだった。小池氏は、希望の党の政治理念に賛同できないリベラルを「排除」すると発言した。これがきっかけで、民進党の「左派」は立憲民主党を立ち上げ、希望の党に合流した民進党の候補者には不満が広がった。

 結局、旧民進の候補者も、希望の候補者も、共倒れといっていい結果になった。

 もしこれが、本当にアウフヘーベンを目指し、その結果としての政治理念や政策を打ち出していたなら、今回のような結果にはならなかっただろう。