「今日中に食べるんだよ」と、
くどいほど念を押される

「さいち」のおはぎの限定は、美味しく食べられる期間だ。
 これが、なんと、その日のうちなのだ。
 たとえば、東京から仙台に出張にきていて、東京に戻り、明日同僚に渡そうということを、「さいち」は許していない。
 遠方へのお土産を、「さいち」は想定していない。社長の佐藤啓二氏は帰り際、「今日中に食べるんだよ」と、くどいほど念を押してくる。

 それは「おいしく食べられるのは、その日のうちだから」と、やはり、顧客目線の正当な「ストーリー」がある。この「ストーリー」を前にすると、残念ではあるが、納得せざるをえない。

 おそろしい話ではあるが、「コンテンツ主義」を突き詰めたところにできる、「小ざさ」の「幻の羊羹」や「さいち」の「おはぎ」など、「ハイパー・コンテンツ」には、人を従順にさせる力がある。

「ハイパー・コンテンツ」を前にすると、それを購入すること自体が喜びとなるから、行列に並ぶことも、下手をすると楽しくさえなるし、店の方から制限を与えられても、極力、守ろうという姿勢になる。

 実に、行儀よくなってしまうのだ。
 ここには、横柄な客も極端に少なくなり、また評判も上がるので、これを続けると「ブランド価値」は一方的に上昇することになる。

 つまり、ビジネスをする際に、人は「限定」というある種のマーケティングのワザを容易に使いたくなるが、顧客目線の正当な理由がない場合は、たとえ、そのときはわずかに売上が上昇したとしても、それよりも大切な「ブランド価値」を損傷しかねない。