[東京 31日 ロイター] - 日本経済の拡大が続き、欧米の中央銀行が金融政策の正常化に踏み出す中でも、日銀は短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度とする現在のイールドカーブを堅持し、緩和効果の強まりを待つ姿勢を鮮明にしている。

為替への影響は未知数としたが、「粘り強い」緩和政策のスタンスを打ち出すことで、1%未満で推移する物価上昇率の押し上げに期待する姿勢だ。

世界経済は低インフレと景気回復が共存する「ゴルディロックス(適温)状態」と、市場関係者の多くが楽観視している。

その中で、欧州中央銀行(ECB)が26日の理事会で、来年以降の資産購入量の半減を決めた。

金融政策の正常化で先行している米連邦準備理事会(FRB)は、利上げの継続とともにバランスシートの縮小にも着手。金融正常化に踏み出した米欧中銀に対し、大規模緩和の継続を強調する日銀のスタンスが際立っている。

<米欧に比べ根強いデフレ心理>

31日の会見で、黒田東彦日銀総裁が指摘したのは、曲がりなりにも物価が1%台半ばから後半で推移する米欧と、1%にも満たない日本との違いだ。

黒田総裁は、多様な要素が影響としているとしつつ、1998年から2013年までの「長いデフレ」で醸成された日本社会に内在するデフレマインドの作用にも言及。「成長予測がしっかりしていれば投資、人員採用、賃金引き上げがあり得るが、低成長デフレが続き、なかなか将来について強い期待が持たれていないのかも知れない」「そういった将来の成長期待がもう少ししっかりしてくると、投資、採用、賃金引き上げ、価格も上がるが、まだそこまで至っていない」と述べた。

だからこそ、潜在成長率を上回る成長を続けている今の局面で、現在の超緩和策を続けることで、賃金─支出ー物価へのメカニズムが、いずれ働き出すとの強い期待感があり、黒田総裁は「賃金の上昇圧力は高まっている」と述べた。

桜井真審議委員も18日の函館市内の会見で、需給ギャップの改善が続く中で「現行の枠組みを続ければ、金融緩和の効果がどんどん強まっていく」とし、「現在の金融緩和を続け、粘り強く効果を待つ」ことの重要性を強調している。

このため現在のイールドカーブコントロール政策を早急に修正するべきとの見解には、強く反論する姿勢も示している。

黒田総裁は「現時点で今のイールドカーブ・コントロールを変更するという必要があるとは思っていない」と明確に述べた。

ただ、こうした日銀の政策スタンスには、BOJウオッチャーの一角から、懸念の声も出ている。

東短リサーチ社長・チーフエコノミストの加藤出氏は30日のロイターとのインタビューで、超低金利による金融機関収益への悪影響など副作用もあると指摘。欧米中銀が金融政策の正常化を続けている間に、日銀は超金融緩和政策を微調整する必要があるとし、「来年のできるタイミングで、イールドカーブを適正な水準にしておくことが肝要」と述べている。

<物価上昇へ、一段と賃上げ重視>

黒田総裁も、このままどんな経済環境になっても、今のイールドカーブを維持するとは言っておらず、物価動向が改善して行く中では金利をどうするかは、考慮に値するとも述べている。

そこで、日銀が物価上昇への大きな要素として期待しているのが、来年の春闘だ。総裁は会見で、人手不足が鮮明になっているにもかかわらず、賃上げが鈍い理由を問われ、日本経済の将来の成長期待が十分に高まっていないことに加え、「日本の労働市場が正規と非正規で分断されていることがある」と説明。春闘について「前向きな取り組みがあることを期待している」と表明した。

金融筋によると、黒田総裁は9月下旬に行われた金融機関との会合で、すでにパートの賃金が前年比2%後半の高い上昇となっており、「正規雇用者の賃上げにもいずれ波及する。こうした賃金コストの上昇が生産性の上昇で吸収しきれなくなってくれば、価格転嫁を開始する企業が増えてくる」と自信を示したという。

遅ればせながら、日銀が金融政策正常化へ方向性を見出せるのかどうかは、来年の春闘が最初の関門になりそうだ。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)