FOCAL

 フランスのFOCALは11月3日、秋のヘッドフォン祭 2017の会場で、開放型ヘッドフォンの新製品「CLEAR」(クリアー)を公開した。2016年発表の「UTOPIA」(ユートピア:税抜き58万円)、「ELEAR」(イリア:税抜17万5000円)に続く第3弾。価格は25万円(税抜)で、12月から販売する。

 FOCALは自社製品を5つのカテゴリーに分類し、代理店など販売チャネルも分けているがこちらはスピーカー同様、家庭でじっくりと聴くため、“ホーム”に属する。ラックスマン経由で販売する。なお同じFOCALでも、モバイル向け製品は“NEW MEDIA”としてエミライ経由で販売する。発表会も別々に開催した。

FOCAL
大型ではあるが、軽快感も感じさせるデザイン
FOCAL
ヘッドフォン機構のデザインスケッチ
FOCAL
デザイン面での差別化要素

 UTOPIAやELEARとは同サイズ。ヘッドフォンでも部屋でスピーカーを聞くのと同じ体験が得られるよう、快適でフィットする機構にした。頭部形状に関わらず、真横から同じ角度で音が聴けるよう考え、100以上のパーツ(うち4つは稼働部品)を組み合わせた凝ったつくりとなっている。フレームはアルミ合金で、ヘッドバンド部分はレザー製となっている。3モデルがほぼ共通の機構を備えているが、これはドライバーユニットのバスケット部の直径が50mmと同じである点も関係している。

 一方でUTOPIA/ELEARの高級感は維持しつつ、別の方向性や質感を目指し、グレーのヘッドバンド、チャコールグレーにアルマイト処理したアルミハウジング、細かな穴の空けられたマイクロファイバークッションといった新しいデザインにしている。

 ちなみに開放型ということもあり、中央付近(ロゴが書かれた部分)はプロテクター越しにドライバーの裏側が完全に見える形となっている。デザインは違うが、これも3モデル共通。裏側が赤くペイントされたUTOPIAでは、それが特に分かりやすい。

FOCAL
裏側が完全に開放されているので、ドライバーの裏側が透けて見える
FOCAL
UTOPIAだと赤いのでさらに分かりやすい

 振動板はELEARと同じ。サイズは直径40mm。ただしボイスコイルなどドライバーの構造は新開発した。

FOCAL
FOCAL
振動板がシルバーなのがCLEAR。グレーなのはベリリウムを使用したUTOPIAのもの
FOCAL

 振動板の形状は、Mシェイプと呼ばれる自動車用スピーカーで培った振動板形状が取り入れられている。中央がMの字のように盛り上がったドーム形状で、ヘッドフォンのような近接再生に適しているそうだ。素材はアルミ合金とマグネシウムを複合したものとなる。マグネシウムは剛性が高く、低歪みで高解像度。アルミドームはダンピングに優れ、スムースでリンギングが発生しにくい。両者をいいとこどりした形となる。また、エッジの部分を非常に薄く軽く作っている。発表会では計測グラフを示しながら、競合と比べて極めてひずみの少ない特性をアピールしていた。

サポートがなく、フィルムだけのボイスコイル

 構造面ではボイスコイルの軽量化を図るため、ボビンに銅線を巻くのではなく、フィルム状のコイルを利用している。サポートは一切置かず線だけで形成。マグネットとも接触しないそうだ。低インピーダンス化につながった。ここもドライバーから設計し、製造できるメーカーの強みを存分に生かした凝った作りと言えそうだ。

FOCAL
FOCAL
ドライバーの分解図(左)と特徴(右)
FOCAL
Mシェイプの振動板、ボイスコイルはフィルム状になっている
FOCAL
FOCAL
周波数特性と歪みのグラフ

 導体も従来は銅と銀を使っていたが、銅のみとなり、高域がニュートラルになった。また、軽量化も影響してインピーダンスも80Ωから55Ωに低減。感度も向上し、低電力のアンプでも駆動しやすくなっている。

 感度は104dB SPL/1mW(1kHz)。全高調波歪率は0.25%(1kHz/100dB SPL)。周波数特性(±3dB)は5Hz~28kHz。

パッケージ内容でもELEARと差別化

 ケーブルに関しては4ピンXLRのバランス駆動用ケーブルも用意する。ノイトリック製の端子などが付いた他社製品を買ってくるのではなく、自社生産している。ここも既発売のELEARとの明確な差となる。キャリングケースも新規で起こしており、内部が4分割されているため、3本のケーブルに加え、オーディオプレーヤーも一緒に持ち運べるという。同サイズのため従来機種も収納できる。

FOCAL
ケーブルは自社で開発している。こだわりが垣間見られる部分
FOCAL
FOCAL

 発表会に登壇したライターの岩井喬氏は「聴いた印象としては、UTOPIAは反応の良さもあり、高域から低域までレスポンスがいいニュートラルサウンド。CLEARは落ち着きがあってしっとりと聞かせ、低域もいい。ELEARは自然な味わい感がある」と各モデルの違いを述べた。

 イヤーパッドの素材に関しては、ELEARと同じベロア素材だが、UTOPIAのレザーイヤーパッドのように小さな穴を多数空けて、内部の響きを吸い取る構造としている。

FOCAL
イヤーパッド。ELEARのものと素材は一緒だが、穴がたくさん開いている
FOCAL
イヤーパッドを外したところ

素材に対する執拗なこだわりが、技術志向の会社らしさ

 FOCALは、ジャック・マユール氏によって1979年に設立。本社と工場をリヨン近くのサン=テティエンヌに構える。またブルボンランシーに新キャビネット工場を作ったところだ。スピーカーでは、20万円で買えるリーズナブルな製品から、ペア2000万超の最上位スピーカー「Grande Utopia EM」まで幅広いラインアップを擁している。自社でユニットを設計し、フランス国内の工場でほぼ手作りに近い工程を経て製造するMADE IN FRANCEにこだわったメーカーでもある。

FOCAL
FOCALから来たRomain Vet氏とQuentin Morieux氏

 技術志向の強いブランドだが、特に振動板素材の選択に関してはこだわりを見せる。代表的なのはスピーカー/ヘッドフォンとも最上位機が使用するベリリウム素材。高剛性、軽量性、高減衰性(ダンピング性能)の3点を重視しているが、それぞれ歪みの少なさ、音の立ち上がりの速さや微細な信号の再現性、カラレーションの少なさなどに影響する部分となる。

 ちなみに余談となるが、UTOPIAの振動板は蒸着処理ではなく、22.5μmの薄さのベリリウム板を自社工場でプレス加工するピュアベリリウム素材となっている。限られたスタッフだけが入れる場所で秘密裏に作業するとのことで、製造技術の面でもコスト面でも極めて手の込んだ内容である。