麻倉怜士のハイレゾ

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。10月ぶんの優秀録音をお届けしています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『トーキョー・ワンダラー』
渡辺香津美

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 渡辺香津美がアコースティック・ギターにて、オリジナルとスタンダードナンバーを、ストリングスと共に奏でる。

 冒頭の「哀愁のヨーロッパ」。甘く、切ないストリングスがヨーロッパの暗く、よどんだ雰囲気を醸し出し、アコギが、すっきりとした透明なタッチで、淀みなくスムーズに進行する。オリジナルのサンタナのこってりした濃密な味わいとは違う、透明度の高い哀愁表現だ。

 5曲目「君の瞳に恋している」。ストリングスが躍動し、ギターがラブリーに心地良く躍進。ボーイ・タウン・ギャングのバージョンのリフをそのまま軽妙に演ずるストリングスは、本作品の第2のメインロールだ。アクティブリスニングにも、またBGMにも最適な一品だ。懐かしのカルメン・マキは最後の11曲目。「花ごよみ~七つの水仙」にようやく登場。アルトのこってりとしたブルージーな歌唱だ。

FLAC:96kHz/24bit
ワーナーミュージック・ジャパン、e-onkyo music

『ストラヴィンスキー:バレエ音楽《春の祭典》/バーンスタイン:《ウエスト・サイド物語》よりシンフォニック・ダンス(96kHz/24bit)』
アンドレア・バッティストーニ、東京フィルハーモニー交響楽団

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 アンドレア・バッティストーニと東京フィルのサントリーホール・ライブ録音は名アルバムとの評価が高いが、私に言わせるとまるでお風呂で録っているような残響過多で、せっかくのバッティストーニの鮮烈な切れ味が鈍る。

 ところが本作は違う。目が冷めるような鮮烈さ、細部までの細かな彫塑は、このコンビ録音の新しいページを開く。ライブならではの豊かなソノリティを保ちながら、ハイレゾならではの細部までのこまやかな目配りが聞ける。バッティストーニならではの色彩感も本作の楽しみ。会場がサントリーでなく、オペラシティタケミツホールであるのも、違う音響の一因だろう。

 オーケストラは上手いが、さらなる切れ味とスケール感が欲しい。高解像度なので、このオーケストラの音響的な持ち味がより明確になる。「春の祭典」は2017年5月、オペラシティタケミツホール録音。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
DENON、e-onkyo music

『A or B』
中島美嘉

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 3曲収録のミニアルバム。『A or B』は「花王フレアフレグランス」CMタイアップ曲。重たい金管とドラムスだが、音の進行は躍動している。中島のヴォーカルは、透明感に加え、どこか突っかかるようなトゲがあり、特に高音の硬質さが、大いなる魅力だ。

 曲は、ウァースとサビの対比が見事なポップなトーンで、確かにこのハッピー度からして、花王CMのタイアップに起用されたのも分かる見事な仕上がりだ。ただし私の認識からすると、この曲は中島のイメージとしては過度に元気過ぎる。もっと影が濃いのが、中島の本領だ。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Associated Records、e-onkyo music

『ライヴ・イン・ロンドン』
Michel Camilo

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 ジャズ・ピアニスト、ミシェル・カミロの5年ぶりのソロ・アルバム。2015年6月13日、ロンドンのクイーン・エリザベス・ホールでのライヴ収録。素晴らしく美麗なピアノサウンド。スピーディなアルペジォ、旋律と共に奏される滑らかで複雑なリフの音が、ハイレゾにてその魅力が細大漏らさず収録されている。

 ソロだから100パーセント、カミロの魅力が味わえる。叙情的な弱音から、輪郭をシャープに立てて、大振幅で進行する強音までのダイナミックレンジは広大。それも音的なワイドレンジ感のみならずく、音楽的に、また感覚的な語り口の多さも。複雑な重音の組み合わせでも、細部まで徹底的に解剖するハイレゾの音を聴け!

FLAC:88.2kHz/24bit
Sony Music Labels、e-onkyo music

『夜のつづき』
八代亜紀

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 ジャズの中にある演歌性──人の心の本性を露出する---を、実に見事に透徹して表現する八代亜紀のジャズアルバム。その大ぶりなニュアンス表現、ヴィブラートのかけ方はまるで、ド演歌。日本の演歌もアメリカのジャズのどちらも魂を深く追求し、たっぷりと歌い上げるのが八代流。

 前回のジャズフルバムも大好評ということだが、それは日本人だから分かるフィーリングだろう。美空ひばりのジャズは、アメリカからの直輸入だったが、八代はまったくもってドメスティックな"演歌ジャズ"に変貌させている。だから面白い。

本アルバムのプロデューサーでもある元ピチカート・ファイヴの小西康陽氏訳の日本語には、この曲ってそうなのかとの発見、多し。You'd Be So Nice To Come Home Toが「帰ってくれたら嬉しいわ」とは確かに名訳だ。

FLAC:96kHz/24bit
EmArcy、e-onkyo music

『I Know I Dream : The Orchestral Sessions (Deluxe Version)』
Stacey Kent

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 ステイシー・ケントの2年振りの新作。ストリングスをバックにキュートな歌声で聴かせる。私はステイシーも大好き。女性ジャズでいうと、一位がヘイリー・ロレン、2位の情家みえと並び、私のフェイバリットだ。キュートで、グロッシーな音色、シンプルながら軽妙な節回し、歌詞への深い共感性……など、ステイシーの魅力を語ると言葉が尽きない。今回は濃密なストリングスとサックスをバックにラブリーにつぶやくような歌唱が耳に実に心地よい。2曲目のPHTOGRAGHのけだるい語りも、心に染みる。

FLAC:44.1kHz/24bit
Okeh、e-onkyo music

『Wagner: Der fliegende Holländer』
Otto Klemperer

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 アビーロードスタジオで1968年に録音されたアナログ音源を、そのアビーロードスタジオにてリマスタリング。ややオフマイクでの収録なので、全体像は確かだが、細部までの解像度はあまりない録音だが、音色の透明感は感じられ、鮮度も向上している。これまでもハイレゾで、巨匠クレンペラー作品はいくつもリリースされているが、音のフレッシュネスという点では、これまでの作品と一線を画す。音場はふたつのスピーカーの間に位置するのみならず、積極的に三角形の頂点に居る聴き手に向かってせり出してくる。

FLAC:96kHz/24bit
Waner Classics、e-onkyo music

『Carry Fire』
Robert Plant

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 レッド・ツェッペリンのヴォーカリストだったロバート・プラントの、前作『LULLABY AND... THE CEASELESS ROAR』から約3年振りの新作。ひじょうに品質感の高いロックアルバムだ。まず最新録音だけあって音の解像度か高い。昔のアナログ録音のロックアルバムでは、音の塊の濃密さに比べ、細部はあまり透視できないものが多いが、楽器の数が多く、音数も多い本作では、そのひとつひとつが明瞭に聴ける解像感だ。音色の透明性も出色。たんさんある楽器の相互とヴォーカルとの間の濁りが少なく、音像の明瞭さが印象的だ。

FLAC:96kHz/24bit
Nonesuch Records、e-onkyo music

『カラーズ・オブ・ザ・ハート ~ ディーリアス、ドビュッシー、ラヴェル、グリーグ/ヴァイオリン作品集[Digital version]』
小町碧、サイモン・キャラハン

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 イギリス在住のヴァイオニスト・小町碧(こまち・みどり)のファーストアルバム。いまナクソスが推進するディーリアス・プロジェクトのコアだ。イギリスのディーリアスが活躍した同時代のドビュシーのヴァイオリンソナタから始まるが、この作曲家らしい淡色ながらグラテーションが美しい微妙な音色が堪能できる。ディーリアスのヴァイオリンソナタでは深遠さと、たゆたう感情の動きを小町は愛情深く奏す。ディーリアス「 夏の夜、水の上にて歌える」は深い思いを湛えた、ゆったりとしたフレージングが、大きな振幅を伴って心の奥底まで届く音の透徹力が魅力だ。2014年2月21-22日、イギリ・スサフォーク州のポットンホールで録音。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
MusiKalaido Records、e-onkyo music

『moumoon acoustic selection -ACOMOON-』
moumoon

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 ソロのアコースティック・ギターを背景にラブリーなヴォーカルが軽快に、歌唱する。オーディオ的にはギターもヴォーカルも見事なセンター定位を持ち、輪郭が明確な、音場に適した等身大のサイズを持つ音像が心地良い。14曲目cocoon。透明感の高いヴォーカルが、ナチュラルな音調を聴かせ、クリヤーでクリーンな音色感。7曲目、CMでよく耳にするSunshine Girl。うきうきな気分で、陽光を浴びるお散歩の愉しさをナチュラルに歌うハッピーソング。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
avex trax、e-onkyo music