そんな北朝鮮の「人権状況」は、現在どうなっているのか。徹底した秘密主義の厚い壁に阻まれて、その実態を垣間見ることさえ容易ではない。すべては国家機密であり、海外はもとより、国内にも漏らされることなく、事実は闇から闇へと葬られている。

 しかし、漏れるはずもない機密情報こそ必ずや漏れてくるものである。主に脱北者をはじめ、北の深奥部に特殊な情報ネットワークを持つごく少数の情報通の手によって、いわば「地獄耳」の耳元には伝播してくるものである。

 今回筆者は、北朝鮮事情に詳しい複数の情報通にアプローチして、北で深く潜行している、救い難い人権侵害の恐怖の実態を知った。その非情で凄惨な実態を紹介しながら、筆者なりの問題意識を読者諸氏に投げかけていきたい。

韓国の高官に聞いた
張成沢が粛清された真の理由

 まずは、独裁者の金正恩朝鮮労働党委員長が、身内や政府高官に対し、いかに「粛清」を乱発、行使しているかをお伝えしよう。その実態はおぞましい限りである。金正恩以外は、親族であろうが側近であろうが、決して安泰ではない。民主的な手段である法的な裁きを介することもなく、問答無用で粛清されていく恐怖と暗黒の世界が広がっている。

 たとえば、筆者はある韓国の高官から、北で現実に行使された「大粛清」の生々しい様子を聞いた。彼は、金ファミリーをよく知る北の元幹部が韓国に亡命した際に事情を聴取して、その実相を知るに至ったという。

 金正恩は2013年夏、金正日総書記の妹婿で、伯父でもある最側近の張成沢・党行政部長(当時)を突如、公開処刑した。処刑の方法には諸説あるが、機関銃で全身を穴だらけにした上、犬に食わせる残忍なものであったと、ごく一部の内外メディアが伝えている。

 この情報は事後に世界中に知れ渡ったが、実はこのとき、張成沢だけでなく、張の過去の「ある一件」を知る立場の幹部や関係者たちも一網打尽で処刑されており、その処分者数は総勢3000人に及んだ、とされている。

 真相は、金正恩の妻・李雪主が張の元愛人であったからだという。張成沢は、妻の金敬姫(金正日の実妹、金正恩の叔母)を介して金正恩に李雪主を紹介。その後李雪主は妊娠して、2人は極秘に結婚。李雪主は長女・主善と次女・主愛を産んだ。ところが金正恩は、李雪主夫人を表舞台に頻繁に連れ出し、その存在が国内外に知れ渡る過程で、周囲で噂されていた李雪主夫人と張との過去の一件を耳にすることとなる。激怒した彼は、その過去を大量粛清で抹殺したかったに違いない。