いつ何時、どんなことで「政治犯」の烙印を押されるか、油断も隙もない日常だ。当局の指示・命令に逆らう者はすべて政治犯となり、一族郎党までが全員、処罰の対象となる。北朝鮮では国民を強制労働に動員して働かせる指示・司令が日常茶飯事に飛び交い、それに逆らえば本人だけでなく、家族ぐるみで政治犯収容所に収監されるという例も珍しくない。

 国民にとって、収容所はまさに「生き地獄」。その生々しい実態は、国連の北朝鮮人権調査委員会(COI)が2013年3月から約1年がかりで調査し、2014年2月に発表した372ページに及ぶ最終報告書から詳しくわかる。安さんはその作成に協力、尽力した1人だ。

 同報告書は、全国に配置された政治犯収容所で過酷な強制労働を強いられてきた元収容者をはじめ、拷問や虐待を受けて逃れてきた脱北者、非情な処刑を実行してきた元刑務官など、被害・加害双方の当事者300人以上から生の証言を集めた聞き取り調査が中心となっており、信憑性が高い。

 内容は、拉致や誘拐をはじめ、一族抹殺、拷問や性的虐待、奴隷化、公開処刑、さらには人種や宗教による差別など、あらゆる人権犯罪を具体的に列挙している。ただ、秘密大国の徹底した隠蔽主義に阻まれて、当局への聞き取り調査が不可能であったため、人権状況に関する全国レベルの全容が全く把握できていない点では、画竜点睛を欠いている。

 たとえば、政治犯や連座制の発生件数をはじめ、政治犯収容所の数、収容者や死者の累計総数、被害者の年齢構成・男女比・飢餓状態・疾病率、さらにそれらの時系列推移など、当局にとって「不都合な真実」はすべて闇の中である。

強制収容所の政治犯は
死んだ後も人間扱いされない

 実際に、政治犯収容所の生活はどのようなものなのか。同報告書によると、その多くは人里離れた山岳地帯の荒地に立地しており、収容者が容易に脱走できない仕掛けが何重にも仕組まれているという。周囲を高い壁で囲み、有刺鉄線を張り巡らし、高圧電流が流れている。壁際には落とし穴や地雷も埋められている。

 収容所には多数の監視所や検問所があり、自動小銃を携帯した看守が見張っている。収容者の収容所内の移動は厳しく制限されており、許可なく周囲の壁に近寄ることはできない。

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