8月、ヤマダ電機(群馬県/一宮忠男社長)は、「ハウスメーカーのエス・バイ・エル(以下、S×L)を連結子会社化する」と発表した。これまで中古住宅をオール電化に改装(リフォーム)して販売するビジネスを展開してきたが、今度は新築住宅への参入を決めた。その狙いと、ホームセンター(HC)が学べる点や注視すべき点にも言及したい。

家電量販店の戦略
延長線上にあるS×L子会社化

 2010年3月期決算で、売上高が2兆円を突破し、直近の11年3月期決算ではさらに増収を果たし売上高が2兆1532億円に達したヤマダ電機。8月には、株式公開買い付けと第三者割当増資の引き受けにより、ハウスメーカーのS×Lの連結子会社化を発表し、拡大成長路線をひた走る。一連の積極策は、家電から住宅へと業容を拡大する成長戦略によるものとみえる。

 ヤマダ電機で、経営企画室を管掌する岡本潤取締役に、このほど発表された、S×Lの連結子会社化について質問を向けると、「この件はすべて、家電量販店の事業の延長線上の戦略として説明がつく」と言い切る。

 ヤマダ電機はこのところ、「省エネ」、太陽光発電システム提案による「創エネ」、自ら創り出した電力や余った電力を蓄え必要なときに使える「畜エネ」など、日本が直面する電力事情や環境問題に積極的に取り組んでいる。昨年12月に、電気自動車の販売を始め、今年3月には、子会社「ヤマダ電機スマート販売」を設立、同時に、社内にはスマートグリッド事業本部を設置した。新規に子会社を立ち上げ、事業本部を一本化したことで、スマート関連商品をトータルかつワンストップで提供する体制を整えたのだ。

住宅事業参入するヤマダ電機の狙いヤマダ電機オリジナルの住宅用太陽光発電システム「サンジャスト」。ハウスメーカーを傘下に入れ、“スマートハウス”の推進をめざす

 こうした取り組みを通じて、中古住宅に太陽光発電やオール電化システムを導入して販売する事業も本格化した。これら既築住宅と太陽光発電やオール電化システムを組み合わせた事業を、さらに新築住宅に拡大する目的で、S×Lの完全子会社化に踏み切った。

 ヤマダ電機のスマートグリッド事業本部の売上高は現在約500億円、またS×Lの売上高も400?500億円で両社の事業規模を合わせれば約1000億円になる。今後、両社のシナジーを上げて、一気に3000?5000億円の事業規模に拡大する計画だ。

 確かに、S×Lの連結子会社化は、華々しい成長戦略に見える。しかし、家電量販店としての、太陽光発電システムやオール電化事業の拡大を狙ったものに違いない。前出の岡本取締役も「ウチは電気屋。他のことに手を出すとことは考えていない」と言い切る。

 これまで、住宅展示場などでしか、消費者に接することがなかったハウスメーカーにとっても、ヤマダ電機が持つ「BtoC」のネットワークは大きな力になるはずだ。すでに、ヤマダ電機には、600店の直営店があり、家電製品の据え付け・配送で訪問する件数は年間1000万世帯もある。これだけのネットワークをハウスメーカーが新築やリフォームのビジネスで活用できれば、メリットになる。

 もちろん、この展開でHCがリフォーム顧客を奪われる可能性もある。

小規模店舗との共生も重視

 ヤマダ電機は、太陽光発電やオール電化事業の拡大に向けて、ハウスメーカーの連結子会社化という戦略に打って出たが、その反面、小規模店舗のチェーン化の強化にも乗り出した。名古屋市にある子会社コスモス・ベリーズ(三浦一光会長)を通じたFC展開やボランタリーチェーンの強化策が、それだ。

 コスモス・ベリーズは、ヤマダ電機の物流を活用できるボランタリーチェーンで、主に小規模の家電販売店が加盟している。ヤマダ電機と同じコストで仕入れができるため、加盟店は他の小売業よりも安い価格で販売できる。9月中旬時点の加盟店数は2300店余りだが、15年2月末までに6000店に増やす考えだ。ヤマダ電機が、こうした小規模店舗を組織化する狙いのひとつは、きめ細かな消費者情報を取得すること。小規模店舗であれば、乾電池1本でも配送して、顧客の自宅に上がり込んで情報を取ってくることも可能だ。こうして集められた情報の中には、住宅の新築情報が含まれている可能性もある。

 こうした着想で事業を構築できる理由は、ヤマダ電機自体、町の電気屋としてスタートした歴史があったからだ。

 ハウスメーカーを傘下に入れるような決断は、ほとんどのHCにとって難しいはずだ。しかし、店舗周辺の地域に密着して、その地域に合った事業戦略を構築することは、どんなHCにとっても可能なはず。ヤマダ電機はHCにとっても脅威だが、顧客情報を収集するための企業努力は見習う必要がある。


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