地方競馬とJRAの違い。2000億円の壁

小林:前に知り合いのファンドマネジャーさんが、日本の株式市場で時価総額が2000億円以下の企業群を「デスゾーン」と呼んでいたのを思い出しました。

 そもそも時価総額が低くて、機関投資家が扱うサイズ感に合わず、個人投資家が中心になる。事業にそこまでインパクトが出ると思えないニュースや、App Storeの日々のランキングで株価が上下したりする。さらに、創業者持株比率が大きすぎるという問題もそれに輪をかけてる。浮動株がほとんどなくて、上場企業なのに1日の株式売買額が数百万円みたいところもあったりするし。

朝倉:流動性が低くて、まとまった額を投資すると一気に株価が変わってしまうという点では、なんだか地方競馬みたいな世界ですね。万馬券を狙って人気薄の馬券を数万円買うと、気づいたら一気にオッズが下がって人気馬券になってしまうみたいな(笑)。2000億円以上のゾーンは中央競馬といった感じかな。

村上:正確なデータを持ってるわけじゃないけど、ロングの優良投資家ががっつり入ってる時価総額1000億円以下の会社ってそれほど多くない。大手優良投資家はある程度の規模を取りたい、でも流動性がないと怖くて買えない、というジレンマがある。流動性が出てくれば資金調達のフレキシビリティが増してくるので、そこまでいけば上場のメリットを感じる経営者も増えてくるのかも知れませんね。

小林:上場したうえで、さらに流動性も一定確保しないといけないわけで、単に上場しただけだと必要条件しか満たしてない。十分な規模の流動性がないままの上場って日本は多いよね。ある有名CFOは、浮動株のボリュームで500億円はいる、と言ってました。50%だとしても、時価総額1000億円はいるわけですね。

朝倉:その意味では、上場のメリットを活かそうとすると、四の五の言わずに時価総額1000億円くらいは目指さなきゃいけないんでしょうね。

 マザーズに上場したばかりの会社の時価総額の規模感を、アメリカのスタートアップのサイズに照らし合わせて考えると、平均的にはミドルステージのスタートアップの水準なわけだし。

*次回【ポストIPOについて Vol.4】「もったいない! 日本企業が敬遠しがちな海外IRツアーの大きなメリット」に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年9月16日に掲載された内容です。

『信長の野望』に学ぶ<br />スタートアップと上場企業の採用戦略<br />【ポストIPOについて Vol.3】朝倉祐介 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。


『信長の野望』に学ぶ<br />スタートアップと上場企業の採用戦略<br />【ポストIPOについて Vol.3】村上 誠典 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。


『信長の野望』に学ぶ<br />スタートアップと上場企業の採用戦略<br />【ポストIPOについて Vol.3】小林 賢治 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。