|解説|人間のエゴで絶滅の危機に。
「可愛いから」で種が滅びる!?

 マンガでも紹介したスローロリス。愛らしい容姿でペットとして需要が高い。だが今、スローロリスはその愛らしい容姿ゆえに絶滅の危機に瀕している。

 最大の理由は、「ペット需要」である。

 スローロリスの合法的な日本への輸入は2000年以降行われていない。

 現在、日本国内で新たに飼育できるスローロリスは登録された両親の間に生まれた個体か、規制の効力発生前に国内で取得された個体のみである。

 スローロリスの人工繁殖は極めて困難で、動物園でも繁殖実績は限られている。

 また、個人による合法的なスローロリスのペット飼育はとても難しい。

 スローロリスは有毒生物のイメージと裏腹に、とても繊細な動物だ。むしろ、繊細だからこそ身を守るために毒を持っているのかもしれない。

 スローロリスの毒は、上腕からの分泌物と唾液を混ぜることによって活性化される。

 この毒は、通常時は刺激臭で捕食者を退け、小動物やヒル、クモなどを殺傷する目的で塗布している。

 本編でも解説したように、この毒の威力は強い。アナフィラキシーショックによって人間を含む大型の動物を死に至らせることもある(ただし、身の危険を感じた時しか攻撃に打って出ることはない)。

 この毒は、毒ヘビなどと同じ神経毒なので、体内に直接注入して初めて効果を発揮する。そのため、ペットとして飼育されるスローロリスの多くは毒を注入しないように犬歯を抜かれているのだ。

 だが、この時の処置によって命を落とすスローロリスも少なくない。

 スローロリスはストレスに弱く、輸送時の衝撃や虫歯などが原因で死に至ることもある。人目にさらされるストレスから胃潰瘍を発症することも多々あるのだ。

 また、スローロリスは体の分泌液を枝や寝床に塗りつけてベタベタにするという習性を持つのだが、それを汚れたからといって掃除しすぎてしまうと、ストレスを与えてしまう。

 さらに、生活環境が変わることにも敏感で、同じ部屋であっても見える景色が変わるだけでストレスを受け、内臓疾患を発症してしまうことがあるという。

 知識や設備の乏しい個人がスローロリスを幸せに飼育することの難しさを理解していただけるだろうか。

 スローロリスの名前の「スロー」はゆっくりした動きから、「ロリス」はひょうきんな顔立ちゆえにオランダ語で「道化者」という意味からきている。

 その動きや顔立ちの愛らしさ、稀少さゆえの物珍しさに惹かれてしまう気持ちもわかるが、スローロリスは決して私たち人間を楽しませるために生まれてきた道化者ではない。すべての生物は、人間のために存在しているわけではないのだ。