「ヤギになることで人は悩みから解放される」と試みた男の話当初は象になりたかったトーマスだが、シャーマンからのアドバイスでヤギに転向する

人間をお休みにして
ヤギになる!?

 ゴルフのラウンドをする度に痛感するのが、脱力することの難しさである。ただ脱力すれば良いということであれば話は簡単だ。しかし少しでも遠くへ飛ばしたいという欲望を充足させながら、力を抜いていくという行為は案外難しい。

「ヤギになることで人は悩みから解放される」と試みた男の話『人間をお休みしてヤギになってみた結果』
トーマス・トウェイツ(著)、村井理子(訳) 、新潮社、280ページ、940円(税別)

 その点、ゼロからトースターを作ったことでも知られる本書の著書トーマス・トウェイツは、明確な目標へ向かいながら全力で脱力するということに関して、稀有な能力を持っている人物だ。

 今回彼が挑戦するのは、人間をお休みしてヤギになるということ。ちなみに本書『人間をお休みしてヤギになってみた結果』は、文庫版で全271ページである。そのうち実際ヤギになって暮らすパートは、最後の55ページほど。全体の約80%の分量が、人間を休むとはどういうことか、ヤギになるとはどういうことかを考察しながらの、準備段階に割かれている。

 これだけ事前準備に精力を注いでいれば、スタートする頃には疲労感も手伝って、おのずと脱力されることだろう。いわゆるパワーの逃がし方が上手いというヤツだ。さらに彼の魅力は、準備段階における問いの立て方の絶妙さ、それを解くにあたってのルール設定の巧みさにも現れる。

 そもそも、動物になろうと思ったきっかけからしてスゴい。当時33歳の彼は、悩んでいた。仕事もパッとしないため、毎日がめっちゃホリデー。安定的な収入もないため銀行の口座開設も断られ、彼女にはそっぽを向かれる。この状況を受け、彼の思考は以下のように展開した。

人間特有の悩みっていうのを、数週間だけ消しちゃうって楽しそうじゃない?
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人間をお休みしちゃうってどうだろう?
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少しの間、動物になれたら、すごくない?