匠の技による「すり合わせ技術」は
もう通用しないのか

 今後も成長を続けるには、デジタルを活用した生産性の向上や効率化はもちろん、新たな事業の創造が不可欠となる。

 日本企業の強みは、匠の技を用いた「すり合わせ技術」だ。例えば、新幹線の自動改札機は進化を続け、ものすごく速くさばけるようになった。だが、韓国では特急電車の改札がない。根本からイノベートし、改札機自体をなくしてしまったわけだ。どちらが革新的かは言うまでもないだろう。

また、ハイブリッドカーには複雑で高度なエンジンとモーターの連携技術が使われており、当初は世間を驚かせたものだが、EV(電気自動車)になればそれさえ不要になる。英仏両政府は2040年までにガソリン・ディーゼル車の販売を禁止すると発表しているが、EVへのシフトが加速すれば、いらなくなるものに多額の開発費用をかけてきたということになりかねない。

 デジタル時代になれば、このようにすり合わせ技術とは無縁の新たな製品やサービスが次々と登場する。いずれ日本企業も、これまでとは次元の違う新たな戦場を見つけなければならないときが訪れるだろう。

脈々と受け継いでいるDNAから
イノベーションが起こることも

 では、デジタルトランスフォーメーションを進めるにはどうすればよいのか。

 第一に変えるべきは「意識」だ。機械ができるような仕事を人間がやっていること自体が間違いだということに早く気づかなければいけない。

 考えてみてほしい。駅の改札で切符を切っている人や電話の交換手はもういない。仕事のツールが進化するたびに、人間から機械へ仕事がシフトしてきたことは歴史が証明している。今の半分くらいは機械で用が済む仕事だと思うが、機械に任せて浮いた時間を、デジタルを活用した新しい事業に向けることが必要だ。

 講演や研修でこうした話をすると、30代、40代の人たちは目を輝かせる。彼らも今の事業だけではこの先危ないぞ、ということを理解しているのだ。だから、「意識」もあっという間に変わる。ところが、すべてとは言わないが、得てして年齢が高い人はそうはいかない。企業の場合も、役員会が50歳以上の男性、しかも生え抜きで占められ、ダイバーシティが最もない大企業と、40歳代の人が社長を務める企業とでは明らかに行動様式が違う。前者は改革が遅くなりがちだ。

 ただ、日本企業の寿命は世界一長いといわれている。これは決して悪いことではなく、むしろ誇りに思うべきだ。とはいえ、中身は新陳代謝していかなければならない。ダーウィンの種の起源のように、環境の変化に適応できるものだけが生き残れる。規模が大きいだけでは死に絶えていくことを肝に銘じておくべきだ。

 長く生き残ってきた歴史のある企業には、脈々と受け継がれているDNAがあり、それがイノベーションを生み出すこともあると思う。実際、環境の変化に適応し、業態を変えたりヒット商品を生み出したりしながら成長を続けてきた企業がある。富士フイルムやカシオ計算機などがいい例だ。最近では、ソニーやパナソニックなどにもそうしたDNAが受け継がれているように見える。