やれと命令された仕事には苦痛を感じるが、みずから必要性を感じて取り組んでいる仕事は辛くない。従業員が後者のモチベーションで働いている状態は、組織やマネジャーにとってはもちろん、従業員自身にも大きなメリットをもたらすことがわかってきた。従業員はその効用を理解して仕事に臨み、マネジャーはそれを上手に促すことで、組織の生産性が向上すると筆者は言う。


 日々、従業員は決断を下す。組織の成功に貢献するよう、もうひと頑張りしたいかどうか。重要な決断だ。なぜなら、従業員が定められた職務以上の働きを進んでするとき、企業の効率性と成果が向上することは実証されているからだ。

 たとえば同僚を助ける、特命を進んで引き受ける、新しいアイデアや業務の仕方を紹介する、強制でないミーティングに出席する、あるいは重要なプロジェクトの完成のために残業する、といった行為だ。

 したがって、マネジャーが成功を収めるうえで重要な仕事は、部下のやる気を引き出し、上記のような役割以上の行動をする気にさせることだ。研究者はこれを、組織市民(シティズンシップ)行動と呼ぶ。

 組織の業績にとって、市民行動のメリットは明らかだ。だが従業員への効果は、それほど明白でない。多くの従業員が市民行動を実践する理由は、同僚や上司、そして組織と固く結ばれ、つながっていると感じるからだ。

 よい組織市民であることは、働くことをより有意義で一層やりがいのあるものにし、また業績評価の向上にも資するので、個人的にも職業的にも満足感が得られる。その一方で、いくつかの研究結果によれば、従業員がよき組織市民でなくてはならないというプレッシャーを感じる場合もある。

 市民行動を取る理由が、自分の印象をよくするためにすぎないケースもある。さらに、役割以上の働きをすることで疲れ果て、ストレスを感じたり、仕事と家庭の板挟みに悩んだり市民行動疲れを感じたりすることの一因にもなりうる。

 最近の研究によれば、市民行動を取らなくてはというプレッシャーにさらされると、かえって逸脱行動に出る可能性もあるという。さらにまた、市民行動はポジティブな感情に関連していることが多い反面、本来の職務遂行能力を妨げるおそれもあり、そうなれば従業員の幸せにも悪影響が及ぶ

 こうした研究が続く中、次のようなコンセンサスが形成されつつある。すなわち、従業員がしたいからではなく、しなければならないと感じて役割以上の仕事をする場合、または正規の職務の遂行とよき組織市民であることの両立ができない場合、市民行動はむしろネガティブな影響を及ぼす傾向があるというのだ。

 組織の成功のために市民行動が重要であることから、マネジャーにとって重要なのは、従業員が役割外行動を取ることで働くことの意義を高めつつ、決して疲弊しない方法を見つけるサポートをすることだ。そのために有効と思われる方法の1つが、これから紹介する「市民行動クラフティング」である。