聞けない、書けない、しゃべれないからのスタート

 質問に明るく、丁寧に答える。“外資のキャリアウーマン”という、ともすればきつさが強調されるようなイメージはあまり感じさせない。実際、外資系を選んだのだから、最初から英語ができたのではないか、と問われることが多いという井上氏だが、実はまったくそうではなかったという。聞けない、書けない、しゃべれない、というところからのスタートだったのだ。

 だが、業務を通じて英語を身につけ、しかも恩師の言葉通り、井上氏は順調にステップを重ねていく。ブランドマネージャー、マーケティングマネージャー、さらにはマーケティングディレクター。入社15年目には、アメリカ本社に赴任する。そしてここで井上氏は、まさにグローバルなビジネスを経験し、大きなショックを受けることになる。

「担当したのは、グローバル戦略構築やグローバルカテゴリー、つまりは各国の戦略を作るための手助けをしてあげる後ろ盾の仕事でした。初めての仕事で、異文化間スキルもまだまだ未熟だったこともあって、ものすごく苦労することになってしまいました」

言わなければわからない
日本とグローバルの大きな壁

 何ができていなかったのか。コーチをつけてもらってわかった。ミーティングの仕切り方などもオブザーブしてもらい、さらには後から出席者の一人一人に井上氏のリーダーとしての改善点などもヒアリングしてもらうプログラムを実施。その結果、見えてきたことがあったのだ。

「指摘されて痛感したのは、目的を共有することの大事さです。日本人というのは、“言わなくてもわかる”ことが多い文化なんですね。でも、グローバルの仕事をすると、みんな文化も違うし、ビジネスの状況も違う。しっかり説明しないと伝わらないわけです」

 その仕事にどんな意味があるのか。会社に対してはどんな意味があり、相手の部署にはどんな意味があり、相手にはどんなベネフィットがあるのか。これをちゃんと説明できないといけない。しなかったときのデメリットも言えないといけないのだ。

「これがグローバルでは、当たり前に求められるんです。そうでないと、“どうして私があなたの仕事をしないといけないのか”ということになる」