運と愛嬌が揃えば、成功の黄金タッグ

オレは身構えた。

「君、今トイレから出てきたやろ。ちゃんと紙あったか?手は洗ったか?」

「あ、ありましたよ。手も洗いました」

「よかったわ。君もよかったけど、こっちもよかった。おおきに。そのままの手で髪触られたら、どう考えてもイヤやろ。おおきに、おおきに、ありがとう」

「はあ」

人間な、感謝が大事や。いつも感謝してたら、自然と愛想ようなる。愛嬌も出る。愛嬌が出たら、運がつく。運と愛嬌が揃えば、成功の黄金タッグや。パナソニックの創業者・松下幸之助も、『運と愛嬌が大切や』て常々言うてた」

「なるほど。お客さん、大阪の方ですか?」

「いや、京都なんや。君、京都に行ったことある?」

「修学旅行で一度だけ」

「そうか……」

男はしばらく考えた後、続けた。

「京都にな、御髪(みかみ)神社てあるんや。髪の毛や理容の神さんが祀ってある。今度、京都に行くことがあったら寄ってみたらええんとちゃうか」

「はい、ありがとうございます。ちなみに、前回『お客さまカルテ』を書いていただきましたが、お名前、何とお呼びするんですか?」

「人の役に3倍立つと書いて、ヤクニタツゾウや。ええ名前やろ」と悦にいった顔で教えてくれた。「タツゾウと呼んでくれたらええわ、腹が立つぞうのタツゾウや」