「君はアホ。正真正銘、ホンマもんのアホや」

「合理的に志を立てるというのは、理屈で志を立てること。非合理的に志を立てるというのは、理屈抜きで『これやりたい』と志を立てること。わかるか?」

「はい」

「で、非合理的に追いかけるとは、何にも考えんと『ただ頑張る』ということ。合理的に追いかけるとは『何をどう頑張るか』をよく考えて志を追いかけることや」

「なるほど……」

オレが半分しかわかっていないのを見透かしたように、立三さんは続けた。

「理屈で考えて合理的に決めた志なんて、ちょっとしたことですぐ崩れてしまうんや。例えば、今流行ってるからというだけでラーメン店を始め、おにぎりショップが流行りだすとすぐ乗り換えるようなヤツは、ものにならん。つまりな、儲かるからという理由だけで始めたことは、儲からなくなるとやめてしまうんや。でも、ホンマに成功したいヤツは、どうしたら儲かるかを死ぬ気で考えて、やり方を見つけて、そのやり方を徹底して、最後には成功する

――そのとおりだ。

「そして、非合理的な志は『愛』や。君は将来性のない、儲からない、誰もやりたがらない、そんなアホしかしたがらないような『ザンギリ』という理容室を繁盛させたいて言うてる。それは非合理的な『愛』でしか説明できんやろ?ちゃうか?せやから、君はアホ。正真正銘、ホンマもんのアホや。アホなんや」

立三さんは、オレの反応を試すような口調で、何度も繰り返した。

――チクショー。

「アホや言われて、腹立つか?人はホンマのこと言われると腹立つもんや」

グウの音も出なかった。

剣術の達人に道場の壁際に追い込まれ、指導してもらえるのかと甘い考えを持った瞬間に、真っ逆さまに柔術の「隅落(すみおと)し(相手が踏み込んできたところに自分も踏み込み、隅に投げ落とす幻の必殺ワザ)」で投げられたような気持ちになった。

立三さんの言っていることに分があるだけに腹が立った。

この人に何かアドバイスをもらえれば、「ザンギリ」を繁盛店にできるのではないかと一瞬でも思った自分に腹が立ち、怒りで震えそうになった。

(つづく)

●著者:さかはらあつし
作家、映画監督、経営コンサルタント 1966年、京都生まれ。京都大学経済学部卒業。(株)電通を経て渡米し、カリフォルニア大学バークレー校にて経営大学院にて修士号(MBA)取得。シリコンバレーで音声認識技術を用いた言語能力試験などを行うベンチャー企業に参加。大学院在学中にアソシエートプロデューサーとして参加した短編映画『おはぎ』が、2001年カンヌ国際映画祭短編部門でパルムドール(最高賞)受賞。帰国後、経営コンサルティング会社を経て、(株)Good Peopleを設立。キャラクターの世界観構築など、経営学や経済学だけでなく、物語生成の理論、創造技法や学習技法を駆使した経営支援、経営者教育を手がけている。著書は、『プロアクティブ学習革命』(イースト・プレス)、『次世代へ送る〈絵解き〉社会原理序説』(dZERO)ほか。映画は、初監督作品の長編ドキュメンタリー『AGANAI』の公開に向けて奮闘中。京都在住。