ビジネスモデルとは、顧客を喜ばせながら、同時に企業が利益を得る仕組みのこと。しかし、現在のビジネスモデルは、あまりにも利益を得る仕組み、すなわち、マネタイズ(収益化)に対する理解が少ないと言えます。マネタイズは、将来の顧客価値提案のためにあり、それを度外視して決めることはできません。それほど密接に関係しているにもかかわらず、別々に取り扱われていることが多いです。
本連載では、最新作『マネタイズ戦略』を上梓した経営学者の川上昌直氏がマネタイズの基本的な考え方をお伝えしたあと、実業界で活躍している経営者や人気クリエイター等との対談を通して、マネタイズについて、顧客価値提案についてどう考えているかを明らかにしていきます。

※写真は本文とは関係ありません

価値提案とマネタイズが調和しない理由

 モノやサービスは良いのに売れない。売れても利益が薄い。このような製品は枚挙にいとまがない。

 久しくいわれ続けている日本のものづくり企業の元気のなさが、その代表格であるといわれる。しかし、本当にそうだろうか。

 顧客への価値提案とマネタイズ(収益化)の両方がそろって、はじめて魅力的な価値創造ができる。だとすれば、顧客への価値提案とマネタイズのミスマッチが起きているに違いない。

 2017年4月、ファン待望のレゴランドが名古屋にオープンした。ゴールデンウィークの集客を期待して、準備が進められた。しかし、チケットが高すぎるとして客足が伸びなかった。1ヵ月後、レゴランドは入場料を最大で実質25%値下げした。

「レゴ」という強烈な価値提案(コンテンツ)で、良質のテーマパークをつくったにもかかわらず、マネタイズでつまずいたのである。

 これは単純に入場料のプライシングに失敗したという話ではない。レゴランドの「誰から、何で、どのように儲けるのか(投資を回収するのか)」というマネタイズにかかわる意思決定の甘さが引き起こした問題である。

 さらにいうならば、そのマネタイズは、「どのような人に、どんな体験を、どんな形で提供できるか」という顧客価値の提案と密接に関連している。こう考えると、価値創造のストーリーづくりが、マネタイズのところで停滞しているといえるだろう。

◎レゴランドが考える顧客は、本当にその料金に満足するのか?
◎その体験は、わざわざ名古屋の郊外に足を向けさせるほどのものなのか?
◎東京や大阪にあるテーマパークとの違いを感じられるのか?
◎顧客が入園してから遊ぶまでに旅費・宿泊費や食事代などのトータルコストの見積もりは、適正だったのか?

 などの点は、事前にある程度の精度で予測できたはずだ。

その顧客価値は「自分事」になっているか?

 顧客価値とは、顧客の受け取るメリットのほうがそれを得るコストよりも大きいときに生まれる。いわば、顧客のコストパフォーマンス、「コスパ」である。

 しかし、いくらコスパがよくても、そもそものコストが、顧客が支払おうと思える可処分所得よりも高ければ、まず「自分事」にならない。

 自分事とは、世の中で注目されていることや、誰かが提案したことがらが、自分自身の問題や厄介事を片づけるのにふさわしいと感じることである。そうでないかぎりは「他人事」として受け流される。

 顧客は、そのプロダクトやサービスが自分事になってはじめて、コスパを判断するのである。その意味では、家族連れでレゴランドに行くという行為や、そこに宿泊するなどのトータルコストが、多くの顧客にとって「自分事」にならなかったのである。

 それを改めなければ、レゴランドの価格低下は止まらないだろう。

 同時に、その価格低下は、価値が低いという印象を消費者に与え、さらに客足を遠のかせることになるだろう。

価値提案に寄り添うマネタイズとは?

 これに対して、テーマパークの成功例としては、富士急ハイランドを挙げることができる。

 富士急ハイランドは、いわゆる古き良き遊園地という価値提案を貫いている。そのため、絶叫ジェットコースターを建設することで巨大テーマパークとの差別化を図っている。その方針においては、多くの目玉となるコースターの建設が必須である。

 しかし、建設費は40億円前後と巨額だ。それを1回あたり1000円の乗車料金で回収していれば、のべ400万人を乗車させる必要がある。

 操業中のメンテナンスコストなどもあるから、満席乗車でフル回転させても、回収には10年以上かかってしまう。そこからパークの追加投資のために利益も獲得することを考えれば、さらにもう10年は運営したいところだ。

 だが、コースターも旬があるので、20年もそのままで営業するのは難しい。

 このような価値提案から利益を収穫するために、富士急ハイランドでは「絶叫優先券」というファストパスを発行して、利益に有効に結びつけている。1000円の乗車料金に対して、通常期で1000円のファストパスを売り出している。

 しかも、それすら開園後すぐに売り切れてしまうほどの人気アイテムとなっている。

 しかもこのファストパスは、繁忙期にはさらに高額になり、1回の乗車あたり2500円まで上昇する。つまり、繁忙期に確実にコースターに乗るためには、来場者は3500円を支払うことになるのだ。

 普通の人であれば、そこまでは支払わないかもしれない。

 しかし、富士急ハイランドの混雑ぶりを見れば、乗車券よりもはるかに高額なファストパスを買ってでも確実に乗りたいと思うのではないだろうか。4大コースターすべてのファストパスを買えば、それだけでも1万円になる。

 しかし、それによって1日で効率よく遊園地を回れれば、宿泊する場合に比べてトータルコストは安く抑えられる。顧客にとっては、そのほうがコスパのよい提案となるのだ。そのおかげで富士急ハイランドは、比較的ひんぱんにコースターの改築などをしてさらに価値提案を磨いている。

 最近では、人気のコースターの「ドドンパ」をリニューアルした。2001年から2016年までで以前のバージョンを終了させている。およそ16年弱で営業を終え、2017年に新たなコースターとして生まれ変わらせている。

 ファストパスを効果的に使うことで、投資回収と利益獲得のスピードはさらに上がっていくことと考えられる。

 このように、テーマパークという同業だけを見ても、ビジネスとしての明暗が分かれる。

 そのポイントは、価値提案とマネタイズの調和である。明確なターゲット顧客に対して、最適な解決策を提示する。そこで終わってはならない。

 尖った価値提案だけでは、革新的なビジネスにはならない。マネタイズをそれに調和させることで、はじめてビジネスとして成立することが、おわかりいただけたのではないだろうか。

川上昌直(かわかみ・まさなお)
博士(経営学)

兵庫県立大学 経営学部 教授
ビジネスブレークスルー大学 客員教授
「現場で使えるビジネスモデル」を体系づけ、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。初の単独著書『ビジネスモデルのグランドデザイン』(中央経済社)は、経営コンサルティングの規範的研究であるとして第41回日本公認会計士協会・学術賞(MCS賞)を受賞。ビジネスの全体像を俯瞰する「ナインセルメソッド」は、さまざまな企業で新規事業立案に用いられ、自身もアドバイザーとして関与している。また、メディアを通じてビジネスの面白さを発信している。
その他の著書に『儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書』(かんき出版)、『ビジネスモデル思考法』(ダイヤモンド社)、『そのビジネスから「儲け」を生み出す9つの質問』(日経BP社)など。
http://masanaokawakami.com

※次回は、11月28日(火)に掲載予定です。