西新宿に実在する理容店を舞台に、経営コンサルタントと理容師が「行列ができる理容室」を作り上げるまでの実話に基づいたビジネス小説。「小さな組織に必要なのは、お金やなくて考え方なんや!」の掛け声の下、スモールビジネスを成功させ、ビジネスパーソンが逆転する「10の理論戦略」「15のサービス戦略」が動き出す。
理容室「ザンギリ」二代目のオレは、理容業界全体の斜陽化もあって閑古鳥が鳴いている店をなんとか繁盛させたいものの、どうすればいいのかわからない。そこでオレは、客として現れた元経営コンサルタントの役仁立三にアドバイスを頼んだ。ところが、立三の指示は、業界の常識を覆す非常識なものばかりで……。
12/6配本の新刊『小さくても勝てます』の中身を、試読版として公開します。

ザンギリ頭を叩いてみれば…

【1年目の秋】

日曜日の午前11時ピッタリに、「寒くなってきたなあ」と言って、ぼさぼさ髪の立三さんが入ってきた。

今日の立三さんは、ジーンズに茶色のフリースを着ていた。

「ビル全体が休みなんで、給湯が使えませんがいいですか?」と言うと、立三さんはあまり気にした様子もなく、「かまへんよ」と言ってくれたので、霧吹きで髪を濡らし、クシで梳いた。

髪を切り始めたところで、立三さんが話しかけてきた。

「『ザンギリ(散切り)頭を叩いてみれば文明開化の音がする』って知ってるか?」

「もちろん知ってます」

「ザンギリ頭」とは、日本が明治になって近代化の波が押し寄せた時、ちょんまげを切り落として刈り込んだ髪型をそう呼んだのだ。

「日本の理容業界というのは、文明開化の頃、横浜にいた西洋人のために持ち込まれた理容技術が、全国の業界団体の交流を通じて普及していったものやろ」

――立三さんは本当に理容のことを調べているんだ。

「そのザンギリを店名にしているのは、すごいと思う」

「そうすか?」

「日本の理容業界を背負ってる名前や」

「そんなこと考えたことなかったです」

「その名前が君にくれる意識を、大切にするんや。そうしたら、道を間違えることはない」

「はい」

オレは目頭が少し熱くなった。