無意識の行動の裏側にも理屈がある

オレは「じゃ、顔剃りしますんで」とバーバーチェアを倒し、シェービングクリームを塗って剃り始めると、立三さんは日向で気持ちよさそうに昼寝する猫のような顔をしていた。

顔剃りを洗髪の後にする理容師も多い。

大した問題ではないが、オレはいつも顔剃りを先にしている。

理由は、顔剃りを後にすると、湿った髪のままバーバーチェアを倒すことで髪に寝癖がついてしまうからだ。

今まで強く意識したことはなかったが、こうした自分が無意識でやっていることの裏側にもちゃんと理屈というか理由があるんだな、とオレはあらためて思った。

そして「今日もサービスで洗髪しますね。ちょっと冷たいかもしれませんが、我慢してください」と前の洗髪台に頭を突っ込んでもらい、髪を洗った。

「はい、お疲れさまでした」

オレは声をかけた。

「おおきに。今日はようしゃべったな」

立三さんは、満足そうな笑みを浮かべて、帰って行った。

オレは、さっそくノートを広げて、今日聞いたことを書き出し、整理した。

(書籍につづく)

●著者:さかはらあつし
作家、映画監督、経営コンサルタント 1966年、京都生まれ。京都大学経済学部卒業。(株)電通を経て渡米し、カリフォルニア大学バークレー校にて経営大学院にて修士号(MBA)取得。シリコンバレーで音声認識技術を用いた言語能力試験などを行うベンチャー企業に参加。大学院在学中にアソシエートプロデューサーとして参加した短編映画『おはぎ』が、2001年カンヌ国際映画祭短編部門でパルムドール(最高賞)受賞。帰国後、経営コンサルティング会社を経て、(株)Good Peopleを設立。キャラクターの世界観構築など、経営学や経済学だけでなく、物語生成の理論、創造技法や学習技法を駆使した経営支援、経営者教育を手がけている。著書は、『プロアクティブ学習革命』(イースト・プレス)、『次世代へ送る〈絵解き〉社会原理序説』(dZERO)ほか。映画は、初監督作品の長編ドキュメンタリー『AGANAI』の公開に向けて奮闘中。京都在住。