ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
JAPANなニュース 英語メディアが伝える日本

「地獄をくぐり抜けてきた」戦う社長、
ウッドフォード氏の帰還

加藤祐子 [gooニュース編集者、コラムニスト・翻訳家]
【第72回】 2011年11月30日
著者・コラム紹介バックナンバー

英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週はオリンパスのマイケル・ウッドフォード元社長の来日についてです。来日というか帰還というか、あるいは凱旋というかは人それぞれでしょうが。記者会見の映像を観ながら、戦わなくてもよかったのに敢えて戦った男が、「地獄をくぐり抜けて」なお、未だに戦い続けている姿だなと思いました。そしてその横にはウッドフォード氏とはまた別の、新聞記者としての戦いに勝った男の姿もありました。(gooニュース 加藤祐子)

6週間前となんたる違い

 オリンパスのウッドフォード元社長が10月14日に解任され、日本を追い出されるように発ってから1カ月余。11月24日に日本を再び訪れ、捜査当局とやりとりし、複数メディアの取材を受け、25日には東京・有楽町にある日本外国特派員協会で記者会見をしました。

 「What a difference a day made」というスタンダードジャズの曲があります(「What a difference a day makes」とも)。「あなたと恋仲になったおかげで、世界は昨日とすっかり違ってみえる」という素敵なラブソングです。その一方でこのフレーズは、素敵でもなければラブでもない場合でも、「たった1日でなんという違いか」という状況の変化を表す慣用句でもあります。ウッドフォード氏の再来日の場合、「What a difference six weeks made」となるわけですが、彼が日本を発った時の状況と戻ってきた今回の状況の落差は、つい歌い出したくなるくらいすごい。

 確かBBCだったと思いますが、ウッドフォード氏は成田空港で「ロックスター待遇(rock star treatment)」を受けたと報じていました。花束を抱えたファンの大集団が一斉に「きゃあああ!」と叫んだわけではないのでそれは違うだろうと思いましたが、言いたいことは分かります。追われるようにして(ほとんどの)マスコミの取材を受けることもなく国を出たウッドフォード氏は、打って変わってメディアの大注目に出迎えられて再び日本にやってきたわけですから。

 ウッドフォード氏が解任されてから出国するまでの短い間に唯一取材したのが、ご存じ英紙『フィナンシャル・タイムズ』のジョナサン・ソーブル記者です。ウッドフォード氏が今回、日本外国特派員協会の記者会見で語ったところによると、取締役会で解任されて間もなく、会社支給のパソコンと携帯電話2台を取り上げられそうになったので1台だけ死守し、自宅近所の代々木公園からソーブル記者に電話をしたのだとか。「彼が電話をとらない可能性もあったけど、とってくれてラッキーだった」と。

 そのソーブル記者も「元オリンパスの男、東京でスポットライト浴びる」という記事で、ウッドフォード氏の「東京帰還は10月の出発とは似ても似つかないものだった」と書いています。10月に会社を追われた元社長は羽田から「slunk away(ひっそり去った)」のだが、その6週間後の帰還は「静かとはほど遠いものだった」と。「空港では記者の一団が待ち構えていた。これは普通ならハリウッド・スターにのみ与えられる待遇で、日本でもこの問題が激しく注目されるようになった印だ。日本の主要メディアの報道は当初、ためらいがちなものだったので」とも。

 一方でロイター通信のこちらの記事は、「拍子抜けするほど地味な(disarmingly low-key)来日だった」と書いています。見る者が変われば景色も変わる。どれくらい派手な到着をこの記者は期待していたのでしょうか。それこそ振り袖姿の女性による花束つきのお出迎えとか? 

 ちなみにこのロイター記事によると到着したウッドフォード氏は、オリンパスの「同僚たちにわかってもらいたい。静かに暮らしてヨットで地中海めぐりをする方が自分にはよほど楽だった。それでも僕は、地獄をくぐり抜けて戻ってきたんだ(gone through hell and back)」と語っています。

 「through hell and back」。これが実感なのでしょう。なにせ本人が日本外国特派員協会の記者会見で語ったように、「自分はビジネスマンで、医療機器メーカーを切り盛りしていると思っていたのに、いきなりジョン・グリシャム小説の渦中にいると気づいたんだから。FBIに会うためにニューヨークへ飛んだり、犯罪組織の関与が取りざたされたり、取締役会で対立があったり、人格攻撃をされたり」の思いをしてきたのですから。生活のためという意味だけで言えば、働く必要はないのに。

 自分は51歳で子供たちはもう大きいし経済的な心配もない、預金は十分あるとウッドフォード氏は話していました。記者会見をして回るのが好きなわけでもない。チャリティー活動に時間をかけたいし、もっと家族と一緒に過ごしたい。オリンパス上層部の何かがひどく変だと確信した時にすぐ辞めることもできたし、今でも何が何でも社長職に復帰したいわけではない。しかし今の自分を突き動かすのはただ自分のためでもオリンパスのためでもなく、「日本にとって何が良いか」だと。もはや事態は「オリンパス以上のことになってしまった」のだからと。

 確かに。これはすでにオリンパス一社の問題では済まない、日本企業のありかたそのものの話です。そして後述しますが同氏が会見で皮肉ったように、日本の主要メディアが「書かなかった」と国外で思われてしまったという話でもあります。

続きはこちら

関連記事
今度は確かに「日本メディアは書かなかった」 オリンパス問題でそらみたことかと 
オリンパスのオリンポス級な壮大なる非論理 FT社説(フィナンシャル・タイムズ)
相次ぐ罵倒がオリンパスの「暗室」を照らし出す(フィナンシャル・タイムズ)
ぼんやり映し出される日本カメラメーカー・オリンパスの姿 会社刷新に呼ばれたイギリス人の場合(フィナンシャル・タイムズ)
解任のオリンパス社長、FTに語る 企業買収に疑問呈したと(フィナンシャル・タイムズ)

関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

加藤祐子 [gooニュース編集者、コラムニスト・翻訳家]

1965年東京生まれ。小学校時代を米ニューヨークで過ごす。英オックスフォード大学修士号取得(国際関係論)。全国紙社会部と経済部、国際機関本部、CNN日本語版サイト編集者(米大統領選担当)を経て、現職。2008年米大統領選をウオッチするコラム執筆。09年4月に「ニュースな英語」コラム開始。訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」。

 


JAPANなニュース 英語メディアが伝える日本

英語メディアは「JAPAN」の社会や政治を、英語読者にどう伝えているのか。日本人や日本のメディアとはひと味違うその視点をご紹介します。gooニュース発のコラムです。

「JAPANなニュース 英語メディアが伝える日本」

⇒バックナンバー一覧