なぜ、一流のビジネスパーソンは「師匠」を持つのか

拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。この第34回の講義では、「戦略」に焦点を当て、拙著、『知的プロフェッショナルへの戦略』(講談社)において述べたテーマを取り上げよう。

師匠から学ぶ「職業的な智恵」

 前回まで、「日々の仕事」を通じて「職業的な智恵」を身につけていくことの大切さを述べてきた。

 では、具体的に、どうすれば良いのか。

 最も有効な一つの方法がある。

「師匠」を持つことである。

 すでに述べたように、「職業的な智恵」とは、書物によっては学ぶことができないものである。従って、それを学ぶ一つの方法は、その「職業的な智恵」を持っている人物から、直接に「体得」という形で掴み取ることである。

 すなわち、スキルやセンス、テクニックやノウハウ、さらには直観力や洞察力などの「職業的な智恵」を身につけた「師匠」のもとで、一緒に仕事の経験をしながら「体で覚え」「呼吸で掴む」ことである。

 例えば、営業の仕事であれば、顧客とのやり取りのリズム感を、「師匠」と一緒に仕事をしながら、呼吸で掴む。企画の仕事であれば、企画会議におけるアイデアの採否のバランス感覚を、「師匠」と場を共有しながら、体で掴む。

 こうした「師匠」と一緒に仕事をしながら、仕事に対する姿勢のすべてを通じて、言葉に表せない「職業的な智恵」を直接に体得するという修業のスタイルは、洋の東西を問わず、昔から、プロフェッショナルの世界では共通である。

 しかし、ここで我々は、最初の問題に突き当たる。

 では、そのような素晴らしい「師匠」を、どうやって見つけるのか。

 その問題である。

 もちろん、現在働いている職場の直接の上司や先輩が、こうした「職業的な智恵」を豊かに持った人物であり、「師匠」と呼べる人物であるならば、何も問題はない。その自分の幸運に感謝しつつ、修業を続けるだけであろう。

 しかし、読者の中には、こう考えている人もいるかもしれない。

「自分の上司は、そうした『師匠』と呼べるような優れた人物ではない」 「だから、『職業的な智恵』を学ぼうと思っても、学べない」

 では、そのとき、どうするか。