信頼を回復する秘策は
すべてをオープンに

 その後、次々に成果を上げて出世の道をひた走るも、大学時代に次ぐ大きな挫折を経験する。そして、経営者の道へ。社長を務めた2社目のシェリング・ブラウでは、忘れられない出来事があったと語る。

「本社の経営が悪化して、トップが交代しました。請われて社長になった私はそれまで、日本は鳥居に任せておく、と言ってもらえていました。ところが、本社トップの交代で、何もかも変えよう、ということになった。折しも前年まで伸びていた売上高が、マーケットの変化で4割も下がってしまいました。その前まではずっと大きく伸ばしてきたんですが、過去の努力なんて見てもらえなかった。日本は鳥居で大丈夫か、ということになったわけです」

 仕事上で何より信頼を大事にしてきた、という鳥居氏が、初めて信頼を作り出せない事態を迎えた。

「私が選択したのは、日本の状況をすべて見てもらうことでした。さらにアメリカ本社とは、週に一回、電話会議をお願いしました。時間をもらって事細かに報告する。いろんな話をする。そういう時間の投資をすることで、信頼感を少しずつ得ていったんです。業績がいいときはいいんですよ。悪くなったときに、どうやって信頼を回復するか」

 すべてをオープンにすること。本社から遠く離れた日本は大丈夫か、という相手の不安を想像し、先回りして対応する。鳥居氏は本社も納得する高い目標を設定し、自らも現場に出て、それを達成している。

 相手の信頼を重視する姿勢は、ベーリンガーインゲルハイム ジャパンで社長を務めるようになってからも変わらない。

「実は初めての日本人トップなんです。ですから、本社には心配もあったはずです。しかも、外部から迎えた。でも、全面的な信頼をいただけました。もとより、そういう風土を持っている会社なんですね」